第68話 新型自慢。

帝国から領地の屋敷へ帰る道。


特甲技研でもらい受けた新型の甲型機動甲冑で、帝都外周部を守る黒神山要塞の門から帝都を出ることにした。


「これは松永卿、お名前といいご結婚といいおめでとうございます。」


「ありがとう。」


帝都に入る時にも話した門番にお祝いの言葉をもらったのでお礼を言っておく。


ウルトゥムも後部座席から恥ずかしそうに―――いや、結構ドヤ顔で―――お礼を言っていた。


「それよりも~大尉~。これってば新型ですか。新型なんじゃないんですか~。新型なんでしょ~。」


「わっかる~。分かっちゃう~。そうなんだよね~。新型なんだよね~。」


「うわ~、いいすねぇ~。」


平成育ちの皆さん。分かりますか。


新車が納車された時のワクワク感が。


前世では車を持っていなかった俺だが、こうして新型の乗り物を手に入れたいま、その気持ちがよくわかる。


「じ~つ~は~、今さっき受領されたばかりなんだよね~。」


「うわっ、マジのピッカピカの新型じゃないッスか。」


そして俺は新車自慢をしたいオヤジの様な若干ウザいテンションになっている。


幸いにも門番の兵は俺のテンションに付いて来てくれている。


――――――――その後ろで俺の嫁さんがすっごくつまらなさそうに憮然とした顔をしていらっしゃる。


………


………………


あるある。


新車あるあるである。


特にウルトゥムは直前に結婚のお祝いを言われていい気分になっていただけに余計につまんないだろう。


しかし、俺はそれに気が付かないのである。


世のお父さんならわかるよね。いや、お父さんじゃなくても男だったら分かるはずだよね。


新車が嬉しくて、テンション上がちゃったままで友達とかに新車自慢しちゃうの。


そして家族や彼女が置いてけぼりになって退屈してるのにそれに気が付かない。


そんなことありますよね。


だからそんなに怒らないでください。


ウルトゥムさん、頬をつねるのは勘弁してください。


「どうやらこれ以上大尉を取っていたら自分が奥さんに攻撃されそうですね。」


「済まないね、ホントはもっと自慢したいんだけど。」


「自分も興味はありますが我慢します。それではお気お付けて。」


「ああ、ありがとう。」


そう言って門を超える。


キャノピーを下ろしてから俺は後ろを振り返る。


「あの、ウルトゥムさん。そろそろ放してもらえませんか。」


「もう少しいいですか。こうゆうのも悪くないので。」


そうしてひとしきり頬を摘ままれた。


「しかし、この新型ですが、乗り物の中で鎧を着る必要性があるのですか。」


ようやく頬から手を放して呉れたウルトゥムは、面頬めんほおという防具の付いた兜を装着していた俺に聞いてきた。


「これがこの新型の肝だからな。周りの乗り物は甲型機動甲冑の開発中の試作品、この俺が今着ている奴が完成品なんだ。」


「その完成品を着て試作品に乗っているのですか。」


「そりゃフォーマットは同じだしな、この乗り物だって試作品と言ってもこうゆう風に追加ユニットとして使う分には優秀だから。たぶんこれからも量産したり、開発して発展させていくだろう。」


「量産……、大和はまた戦争になると思っているのですか。」


「その可能性も考えている。けど、別に兵器としてだけじゃなく一般に普及させることが一番の理由だぞ。」


俺は機体の状態を確認して走りだす。


なかなかに良い反応をする。


少し速度を上げるが出力も上がっているし、操作性もいい。


「一般への普及?え、大和帝国は一般人にも武器を持たせるのですか。」


「違う違う、そうじゃなくってこういう技術って上手く使うと生活が楽になるんだ。例えば乗り物が普及すれば沢山の人の移動に役立てたり、物資の運搬にも役立つ。そうすると産業の生産効率も上がるし供給もしやすくなる。」


「…………はぁ。」


あっ、これピッンと来てないな。


まあボリア帝国の文化水準て中世ぽいし、日本の高度経済成長のようなことは想像できないんだろう。


てか、大和帝国でもいきなりそんな発想が出てくるのは少しおかしい、たぶん自分と同じような転生者なりがいるんだろう。


そう思いながらスピードを上げていたら黒い影が飛び出してきた。


そして機体に衝撃が走る。

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