第48話 新婚旅行は地元で。7
目の前にはお嬢さまスタイルのウルトゥム、顔を見ればさりげなく化粧がされている。
なんと言うか至れり尽くせりだ。
かく言う俺は準軍装、正式な作戦行動や式典出来る軍装とは違い、プライベートなどで着ることを勧められている服装。つまりは普段着以上軍装未満のそこそこ真面目な恰好だ。
一応は若い者のデートとして恥ずかしくない組み合わせではある。が、
……なんかお嬢さまの護衛、みたいになってないかな。
と心配もするが、
俺はカップルどころか、夫婦なんだからと胸を張って行けばいいんだ。
「その、―――似合ってますか、ミチル。」
「に、にっに、―――似合ってるぞ。その―――カワイイ。」
「おやおや~、初心ですな、流石はデート童貞ですね。」
そう言って茶化してくる朱居さん背中を叩かれる。
「とはいえ、野暮はここまでです。さっそく二人で楽しんできなさい。」
そう言われて俺はおずおずとウルトゥムの手を取って出かけることにした。
―――
―――――――――
和風建築の中、その建物に似つかわしくないインテリアの部屋があった。
具体的に言うと、壁にはネコミミの少女が描かれた
更には床の間に飾られているのは日本人形ではなく、ゲームですべてが決まる世界の語られざる神話に出てくる機械の少女のフィギュアが鎮座している。
ちなみに、その床の間にかけられた掛け軸には達筆な文字で「願ったのは、ただ共に生きること。」と書かれていた。
これは部屋の主が自ら書いたものである。
その部屋の主は、畳敷きの部屋の真ん中で座椅子に座って映し出される映像を見てニヤニヤしている。
部屋の主は―――そう、大和帝国・皇帝、紅玉帝である。
彼女は「割烹着の悪魔」が描かれた湯飲みでお茶を啜っていた。
ちなみに、これのほかにも「鬼畜和菓子」や「伝説の平成のアイドル」の描かれた茶器をコレクションしている。
しかし、これらのコレクションは朱居以外の宮女には理解されないものなのだが、分かる人にはこれの価値が分かるものなのである。
―――特に、この大和帝国においては。
ズッズッズッ。
「さて、あ奴らは上手やってくれるかな。」
その眼は釣り糸に獲物が掛かるのを待つ釣り人の様だった。
「……趣味が悪くないですか。」
「ん?おぉ、戻ったか朱居よ。」
「お二方の旅行をデバガメするつもりですか。」
「デバガメとは聞こえが悪いな。これでも2人が上手くいくように気を使っているだけだじゃぞ。」
「まるで仲人が趣味のおばちゃんみたいですよ。」
「ひどいのぉ~。朕はまだ未婚の乙女じゃぞ。」
「表向きは、でしょう。穿卿との関係は公表しないのですか。」
「うむ、朕は別に公表してもいいと思っているんだがのぉ。じゃがコウちゃんがもう少し引き延ばせって言っておったのじゃ。」
「……陛下、差し出がましいようですが……、騙されてませんか?」
「ははは、それはないじゃろう。」
「ですが!」
「安心せい。
「…………」
「そう怖い顔をするな。朕がぞっこんなように彼奴も朕にぞっこんなのじゃよ。彼奴にとっては敵の無い世界など苦痛にすぎん。そして、倒せない敵にこそ愛情を持ってしまう変態じゃ。だからこそ信頼できるのじゃ。」
「ですが……」
「くどいぞ。これは天子たる朕と、それに並ぶ者の話。朕の付き人といえ、ただ人の及ぶべきことにあらず。」
今まで朗らかだった紅玉帝の覇気に朱居は口をつぐむしかなかった。
「…………。さて、あ奴らはどう動いてくれるかのぉ。」
その笑顔は新しいおもちゃを楽しみにする子供の様だった。
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