第32話 大和帝国皇帝、紅玉帝。
「ははは、よく来たのじゃ、
「いえ、自分はそんなペンネームは名乗ったことはないのですが。」
どこまで続くか分からない広間の真ん中で、俺は皇帝陛下に肩を組まれてお酒の酌を受けている。
「ほれほれ、もっと飲むのじゃぁ~。」
大和帝国の皇帝、紅玉帝。
彼女はまごう事なき美少女である。
小顔で整った顔立ち、美しい黒髪は平安貴族の絵に描かれた貴婦人のように長く整えられている。
眉は流石にマロマロしたもにではないが、意志の強さがうかがえる太めの眉。
目の周りには隈取と言うかアイシャドウと言うか、何かの朱い化粧が施されている。
それは確かに高貴なお方だというのが分かるお顔である。
しかしその御年は14歳でしかない。
それでも先帝陛下より帝位を委譲されたお方で、先の大戦では俺の大将撃破、隊長による帝竜の撃沈に加えて、この方が大和帝国初の界境船をもって戦場に参戦なされたことが勝利の象徴とされているのだ。
むしろ俺が皇帝陛下と並び称される戦果とされるのが畏れ多いのだが。
だが、実際はそれ以上に恥ずかしい。
「ほれほれ、もっと飲むがいい。『萌えの夜明け』の萌えの伝道師の四天王、『
「だから自分はそんなもの名乗った覚えはないって。」
「――オッホン。」
と、ついため口が出たものだから朱居さんから注意が入った。
「――――おい、朱居よ、朕とボッキ君の語らいに余計な茶々を入れるでない。」
「失礼しました。しかし、所詮はボッキ君ですから仕方ないかと。」
2人して俺のことをボッキ君と呼ぶのはやめてほしい。
「ふむ、授与の儀式は明日だが、それって形式だけじゃったよな。」
「えぇ。」
「ならばこの場で先に名前を与えても問題ないわけじゃな。」
「もちろん。所詮は明日の儀式は周囲に周知するための見世物ですので。ここで与えても実質は間違いはありません。」
「にゃるほどにゃるほど、ではここでボッキ君の名前を改めるとしようではないか。」
「ご随意に。」
おやおやぁ~、どうもこの誰もいないところで俺の氏名授与が行われて、明日はただの見世物になる様ですよ。
いや、別に見栄えなど気にしないですけどソレでいいのか大和帝国。
「それでその名前だが―――
それです、何より問題はそれなのです。
ソレでボッキ君と呼ばれるのをやめられる。
「やはりミドルネームに「ボッキクン」っていれるべきじゃよなぁ。」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
なにそれ、やめて。どう考えてもおかしいでしょう。普通の名前でいいんです。プリーズ、普通の名前。
「陛下の考えに物申すのは畏れ多いですが、――――後ろの顏がひどいので無しでお願いします。」
「そうか、仕方ない。とりあえず飲めボッキ君。」
どうかこれでボッキ君と呼ばれることが無いように。
「では、松永・カンボッキア大爆発。」
1つ目で心が折れた。
「無しで。」
「ビクトリア・ボッキンガム。」
「せめて日本語にしてあげてください。」
「没鬼。」
「日本語以前に人間の名前じゃないですよね。」
「足利・凹貴。」
「っ陛下、せめてまずはちゃんと氏性を決められては。」
さすがに朱居さんからフォローが入った。
「う~ん、確かにそじゃなぁ。それなら「松永」がいいぞ。」
「その心は?」
「日本の歴史において古き伝統を廃し、新たな文化を生み出した男、加えて乱世の寛雄なれば朕の野望にも役立とう。」
「よろしいかと。」
どうやら俺の名字は「松永」に決まったようだ。
して、名前は?
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