第30話 とりあえず殴ってみた結果。
俺は朱居の顔面に拳を叩き込んだ。
朱居は皇帝陛下の傍仕えである。それを殴るなど許される行為ではない。
が、
それが分かっていて俺はあえて殴った。
すると、俺の拳は朱居の顏にめり込んでいった。
歪んでひしゃげていくのが見て取れる。
その様はパン屋さんに売っているアンパンマンの顏を模したパンの真ん中に拳を叩き込んだようだった。
グニャリ…と、
見た目だけではなく手ごたえもそうだった。
まるでパンの生地に拳を叩き込んだような柔らかい手ごたえ。
その手ごたえも予想してはいたのだが……
歪んだ朱居の顏が笑みを浮かべようとするかのようにさらに歪んでいくところを見てしまって、俺は顔をしかめずにはいられなかった。
パッキュィィィィン!
その時、風船の割れる音とガラスが割れる音、その間のような破裂音が響いて朱居が弾けた。
朱居だけではない。
ウルトゥムも、朱居以外の女官たち弾けて行った。
パッキュィィィィン!
パッキュィィィィン!
と、
次々と弾け・砕けていく人たち。
俺はそれを見ても動揺が出ないようにしていた。
何故なら、このような光景には慣れているからである。
特務機動中隊、当時はただの落ちこぼれ部隊だったのだが、そこでは没入型の戦闘シュミレーションを使うことが多かった。
ここでは詳しいことは省くが、これまでの甲種兵装と異なる甲型機動甲冑のOSを作るため、訓練用と言われて何度も使用してきた。
あの時のログアウトに似た光景だったのだ。
少しトラウマを刺激する光景でもあるのだが……
あぁ、入ったばっかの俺は今の俺から見てあか抜けない、というか青臭いというべきか、まぁなんと言うか…ハッキリ言って弱っちかったのだ。
そのため何度も何度も殺されたのだ。
シュミレーションで何度も殺された記憶がフラッシュバックして気持ちが悪くなってきた。
それをぐっと飲みこんでこらえる。
ビシビシビシビシッ!
人が砕け、そして世界が砕け始めた。
これでこの茶番は終わる。
今まで見ていたのは幻覚であるのはもう分っている。
何処で幻覚を掛けられたのかは……思い当たる事は有るが断言はできない。
重要なのは幻覚が解けた後だろう。
この幻覚の意味を考えればこの先に待つのは人生を左右する、アレだ、……なんだっけ。
『旦那、旦那。そこは
そうだそうだ。分水嶺だ。サンキューウィズ。
『気を付けてください♡この先に待っているのは―――
分かっている。ここからが正念場だ。
俺の野望を進めるためのな。
そして、幻の世界は静かに消え去った。
――――
――――――――
俺がいたのは広い空間だった。
板張りの床に厚手の丸い敷物が敷かれており、そこの俺は胡坐をかいて座っていた。
周りはとてつもなく広いと思う。
離れた場所にろうそくの灯がともる燭台がいくつも並んでいるが、その明かりでは壁や天井が照らされることなく見えないのだ。
ただ、遠近感が狂うような大きな柱がいくつも並んでいるのが見える。
それも等間隔で並んでると思えば距離感がおかしくなりそうな気がするくらいで、実感のほどがつかめない。
ドンッ!
と、いきなり太鼓のような、意識を向けなければならないような音が正面の暗闇から響いてきた。
音に釣られて正面を見れば、
遠くに2つの明かりが新たに灯っているのが見えた。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
音が1つ響くごとに明かりは増えていく。
増えた明かりは先の明かりより高いところに灯り、先の明かりは近づいてくる。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
そして何度も繰り返すごとに俺の正面は明るくなり、そこに階段がある事が分かる。
ドドッォォォン!
一際大きく音が鳴ると、階段の最上段に大きな明かり・松明がともり最上段を照らし出す。
そこには大きな御簾が掛かっており――――
「ひかえおろぉ。大和帝国が皇帝、天子・紅玉帝陛下の御前であるぞ。」
無限とも思える空間にその言葉が響き渡った。
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