第29話 にじり寄るネコミミ
「いかかですか。」
ウルトゥムの衣装の着付けをしていた朱居という女官が、ウルトゥムのコスプレショーを見ていた俺に横からスッスッスと寄ってきて聞いてきたのだ。
「何のことかな。」
「貴方のお連れの女性の今のお姿に欲情いたしませんか。」
「ノー…ノーコメントで。」
「先ほど声に出しておりましたでしょう。」
「ならばあえて聞き返すなよ。」
キモイとまで言われたことをさらにつっつかれたくない。
「大事なことですので。」
俺の目の前ではウルトゥムが猫耳衣装のまま煽情的な恰好でポーズを変えていく。
正直、それが気になって朱居との話に集中できない。
「ところで何でネコミ―――じゃない、頭の上のアレは何なんだ。」
「フフフ―――アレは貴方が言いかけたとおりのネコミミというものです。」
「ほ…ほーう、大和では見かけることが無いがどこかで見かけたかなぁ?」
嘘である。
俺は前世においてその素晴らしさを堪能した人間である。
あっ、ちょっと待って、なんでウルトゥムはじわりじわりと俺の方へ寄ってきてるんですか。
「かもしれませんね。―――ですが、アレはウルタール王国の民族に見られるモノを模したものなんですよ。」
……ゴクリ。
「素晴らしいものだと思いませんか。」
「オモイマス~。」
「そうでしょう、そうでしょう。アレなるはネコミミ。ウルタールの民が持つ至高の特徴。―――貴方のような方はお好きなんでしょう。」
「……何のことだ。」
まさかと思うが、こいつは俺の異世界転生のことを知っているんじゃないだろうな。
「萌え、というものですわ。」
「萌え…だと、……アンタは一体?」
「わたくしは陛下の御傍付き、萌えの洗礼は受けております。」
「つまり陛下は―――
「詮索は厳禁です。ふふふ、そう怖い顔をなさらないでください。気になるのでしたら直接お伺いしたらいかかですか。」
「いえいえ、そんなのは許されないでしょ。」
あくまで一介の戦闘員と皇帝陛下、口を利くことされ許されない身分の差である。
「貴方は明日、それが許される立場になるのですよ。」
しかし、そんな認識は否定された。
「……え?何それ、聞いてないんですけど。…マジで怖いんですけど。」
政治とか怖いし、めんどいから避けたかったのになんか知らない内に厄介な立場にされそうだ。
そして、そんな風に驚愕している俺にウルトゥムはにじり寄ってきて、あごや胸を撫でてくる。
とりあえずウルトゥムのその頭をなでながら朱居に確認してみる。
「まさかこの格好で明日の儀式に出席させるつもりじゃ……。」
「まっさか~。」
まさかの予想外の表情で否定のセリフが来た。
そのフラットな表情、てかジト目で貴方も苦労しているんですねって気持ちがわいてきた。
「明日の儀式にはちゃんとした衣装を用意してます。ですので、安心して醜態をさらしてください。」
「そっか~。…………って、安心できるか~。」
「大丈夫ですよ。笑いは全部貴方の担当ですから。」
俺は朱居の顔面に拳を叩き込んだ。
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