第3話 夢見る勇者の未来の色は

広場を見て回り、町の名物のコーンサンドを食べながら歩くサオラとブルーバック、タマラオ。すると向かいからワラビがやってくる。

「薬屋は見つかったか?」

サオラの問いに、ワラビは苦笑して首を振る。

「お店は見つけたけど、留守だった」

「残念だったな。お前も食うか?」

タマラオがコーンサンドを差し出すと、ワラビが受け取った。

「この町は本当にいろんな人がいるんだね」

というと、広場中央で管楽器を奏でる音楽家の男性を見る。人の行き交う道中で、決して大きな音ではないが、よく響きわたり、足を止めて聞き入る人も多い。

曲が終わると人々から拍手が起こり、男性は一礼してまた別の楽器を準備し始めた。

今度は肩に弦楽器を抱え、しなやかに体を反らして曲が始まる。

「この曲……むかし学校で聞いたことがある」

「え~、そうだっけか?」

すると、音楽家をじっと見つめていたワラビが、

「どこかで見たことがある気がするな……」

とつぶやくが、それは他の三人には聞こえなかった。

すると四人の目の前で、かごに入った野菜がひっくり返って広場に転がる。

「わっ、しまった!ノロごめん!」

かごを抱えなおしてあわてて拾い集める小麦色に日焼けした少女が声を上げ、同じように転がる野菜を追いかけていく黒髪の少女が、サオラたちの前でかがんだ。

サオラとタマラオが、コーンサンドを口にくわえ、近くに転がるいもやオレンジを拾う。

黒髪の少女はすでに手がいっぱいだが、サオラたちに気付いておずおずと近寄ってきて受け取ろうとする。

サオラとタマラオが迷っていると、さきほど声を上げた少女が明るい茶色のツインテールを揺らして駆け寄ってくる。

「拾ってくれてありがとうございます、かごに入れて貰えますか?」

差し出されたかごの中に、サオラたちはそれぞれ野菜を落とした。

「もしかして、冒険者さんたちですか?」

「ああ」

タマラオが返事をすると、明るい笑顔でようこそ、と言う。

「私はそこの酒場で働いているキズリ。こっちはノロ。もしよかったら夕食を食べていってくださいね、酒場の出す料理にしてはおいしいって旅人さんたちに評判ですよ」

キズリは市場の近くの店を指さし、はきはきと話す。隣に立ち黙って四人を見つめるノロと対照的だ。

「みなさんはどこに冒険に行くんですか?」

「えっと……今から情報収集するところで」

「ここいらで有名なお宝がある話でも知ってるか?」

タマラオが乗り出すと、一瞬びっくりした顔をしたキズリは、笑ってノロを見て、身振りをしてノロに尋ねる。

「ネルトン洞のお宝はもう全部とられたっけ?それじゃあガーラク谷のお宝は……先日自慢気に見せびらかしてくれた人がいたね」

ノロが静かにうなずく。

「私たちが知ってる情報はほとんど見つかった後だからね。何かお宝が必要な理由が?」

「お宝が必要なのは金持ちになるために決まってるだろ」

「それだけじゃない、強いモンスターでも討ち取って王国中に名前を広めるんだ」

「なるほど、英雄になりたいのね」

キズリは大きくうなずくと、後ろに立っていたブルーバックとワラビに聞いた。

「あなたたちも英雄志願者?」

二人は顔を見合わせて、ワラビが言う。

「そうだね、僕にもあこがれのヒーローがいる。いつかその人みたいになりたい」

ブルーバックは少し迷うように目を伏せた。

「……オレは、自分の知らない世界が見れればいいなと思って」

「ブルーバック、お前は本当に欲がねェっていうか、何かをやろうっつー気迫が足りねぇんだよな」

タマラオが眉間にしわを寄せるが、サオラはブルーバックを一瞥して、

「いーんだよ、あいつは昔からそうさ」

とこともなげに言った。

キズリはかごを持ち直すと、時計台を一度振り返り、

「情報屋のジョンボさんという人が夜酒場に来る。7時ごろかな。その人ならお金さえ渡せばどんな情報でもくれるよ。もし酒場に来れば紹介してあげる」

「本当か!?」

「よし、夜は酒場で飯だ!」

サオラとタマラオは意気揚々と手を叩いた。

ワラビがキズリに近寄って尋ねた。

「薬屋か薬草を扱ってる店はどこかにないかな?診療所のそばの薬屋は閉まっていて」

「ああ、ダワイさんはよく診療所を留守にしてるから……それなら、ちょうど良かった」

キズリはワラビの向こうに視線を移し、良く通る声で呼びかける。

「ゲルトさーん!薬草が欲しいらしいんだけど、今日は仕入れていない?」

名前を呼ばれて振り返ったのは、体格の良い、頭にターバンを巻いた女性だった。

「ああ、いくつか入ってきているよ。ほしければついてきな」

そう言って女性は煙管から煙を吐く。

「町の商社の頭領のゲルトさんだよ、彼女の手元には大抵のものはそろうから」

キズリが説明し、ついて行くよう促す。ワラビはお礼を言い、残りの3人と一緒にゲルトのあとについて行った。


広場を立ち去る四人の後ろ姿を見送ると、ちょうど音楽家の楽器の音がやみ、拍手が起こる。キズリがノロに向き合うと、

「さっきの人たち、生き残れるかな?それとも……」

先ほどと打って変わって笑顔を消して尋ねる。ノロはじっとキズリの顔を見つめ、首を横に振った。

「彼ら、血を見ることになる」

そう唇を動かした。

東の空が少しずつ暗くなり、二人の顔をなでる風もひんやりと冷たい。

夜が近づいていた。


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