第6話 「嬉しくなるとついやっちゃうんだ」
「普通客人をとりあえず地下牢にぶち込むか。」
シンヤがぶつくさそういった。さっきからずっと落ち込んでいる。
「普通とりあえず斬首刑になっているだろ。」
俺達が息を切らして玉座の前に飛び込んだとき、真っ先に目に入ったのは女王陛下だった。テレビで見ない日はないが、生で見るとより美しい。走っていた時より鼓動が速くなったのを覚えている。その陛下に向かってシンヤは国王陛下はどこかと尋ねていた。おーい、目の前に居るぞ。それどころか、騎士団長のシグルドに制止されて、あろうことか喧嘩腰だ。シグルドは伝説の人で、史上最年少十歳で魔導龍騎に転職し(シグルド以前の記録はフリードの三十五歳だった)瞬く間に騎士団長に上り詰めた当代最強の男だ。陛下がため息をつく。もう耐えられない。俺は後ろからシンヤの肩にハイキックした。全く同じタイミングでリナが頭にハイキック!
「私がFF王国二代目当主、カーネル・マクドナルド3世です。」
「はえ!?」
女王の言葉にシンヤが気の抜けた声を上げる。シンヤの背中の翼が消えると同時に両側から取り押さえられた。俺達も。
「お願いです!国王に、ドナルド・マクドナルドに合わせてください!」
カーネルがピクリと反応した。
「おじい様は今、静養中です」
シンヤの顔が青ざめる。後ろから見てもわかるくらいに。
「どの道、あなたたちほど大胆な侵入者はお爺様に裁いてもらったほうがいいでしょう。」
近衛兵に向かって言う。
「とりあえず、このものたちを地下牢へ」
至ル現在
「てゆーかなんで女王陛下を知らなかったの ?トップアイドルだろ?」
「あ、そうか。見覚えがあると思ったらオーロラビジョンでCMしてた人か!」
こんな調子である。そういえばシンヤは一体何者なんだろう。少しずれた世界観、見たことのない技、誰よりも早い世界終了宣言、時折現れる翼、そういえば初めて会ったときは空から落ちてきたっけ。
「もしかして、お前、天使?」
「俺、天使」
シンヤはニコリともせずに答えた。
「「ってそんな訳あるかい!!」」
俺達のノリツッコミを相打ちになった。
* *
今考えれば、地下牢の中でなぜそんなに明るく陽気に過ごせてたのか不思議だ。一晩寝て、身体中あちこちが痛い。そもそも俺達はいったいなんでこんなところに居るのか。そんな疑問も頭をよぎったが、シンヤを問いただす気力もない。二人も同じなのだろう。今朝からずっと静かだ。
看守が来た。
「女王陛下がお呼びだ」
そう言って牢の扉を開いた。ということは、初代国王 、ドナルド・マクドナルドに会えるのだろう。めったにないことである。看守が鎖をひき、俺たちがそれに迷子防止ロープに捕まる幼稚園児みたいについて行った。そういえば俺は人生初の手枷だ。まさかこんなところで手枷をすることになるとは。後ろの二人が少し気になって振り返ってみた。シンヤは自信満々でもう釈放されたみたいな顔をしている。そういやこいつは元国王にあってどうするつもりなんだろう。リナは疲れ切った顔をしていた。いつもの明るさは無い。
玉座の前に来るのはこれで2度目だけど、思えば扉を見るのは初めてだ。作り込まれた豪華な装飾だ。扉がゆっくり開かれる。両脇に近衛兵が控えているのは昨日と同じだったが、中央にいる人物が違った。初めて見る。鮮やかな黄色のツナギ、同じ色の手袋をしていて、足に赤白のストライプの靴下を履いているらしい。ただ、袖からも同じ模様が見えている。全身タイツでも来てるんだろうか。真っ白な髪。そんな外見の中でも一番目を引くのは、その肌の色だ。髪と同じくらい真っ白だ。そのくせ唇は異様に赤い。
「やあ、ドナルドだよ。」
車椅子に座ったその男が言った。世界史の教科書でしか見たことはないけどこんな人だっけ?ものすごく気さくに話しかけてくるけど?
「ちょっとどいて!」
シンヤが後ろから身を乗り出した。言葉を失っている。ドナルドを見るとこっちも言葉を失っているようだった。目も口もまんまるだ。ドナルドの手が動く。両手を交差して自分の肩を叩く、手を胸の前で打つ、その手を真上に上げる。
「ランランルー♪」
「ドナルドはね、嬉しくなるとついやっちゃうんだ。」
そう解説したのはシンヤだ。
「また会えるとは思わなかったよ。ほら、早く手錠をといて。彼は僕の古い友人だよ。」
看守が慌てて手錠を外した。部屋のなかがどよめく。シグルドの横に女王陛下が前に出てきて言った。
「申し訳ありません。おじい様の御友人とは露知らず、非礼をお許しください。」
「いいえ、貴女方はなすべきことをしたまでです。こちらこそ昨日はすみません。」
「お優しいのですね。一晩も地下牢にいてお疲れでしょう。何か御要望はありますか?」
「あの、お風呂貸して頂けませんか?」
リナが言った。言われてみれば汗でドロドロだ。女王は微笑んで言った。
「わかりました。私が案内しましょう。御二方はどうなさいますか?」
「俺は…後でいただきます」
俺の返答。
「俺は少しドナルド陛下と話そうと思います。」
こっちはシンヤの返答。
「わかりました。じゃあシグルド、えっと」
「アッシュです」
名乗るのを忘れていた。
「アッシュさんを宿泊室に。」
* *
二人が玉座の間から出た後、近衛兵にも退出してもらった。俺から切り出した。
「久しぶりですね。」「そうだね。」
「カーネルおじさんは?」「あの老いぼれなら死んだよ。揚げ物ばっかり食べてるからだ。」
そう言ってドナルド哀しげに笑った。
「そういうあなたも歳ですね。真っ赤だった髪が白くなってたから別人かと思いました。」
「そうだね。昔みたいにキレのあるダンスも踊れなくなった。ところで、今日はどうして来たんだい?」
「鍵を貸していただきたくて。」「何の?」
「破滅の鎖の」
それを聞いてドナルドは笑った。
「また破滅教を壊滅させるのかい?君も好きだね。わかった。明日には何とかするから、今日はゆっくり休んでね。」
さすが脱獄王だ。
「はい」
じゃあ風呂でも入ってくるか。
* *
シグルドは世界に三人の魔導龍騎にして当代最強の男だ。よって、俺の憧れの人である。前を行くシグルドが話しかけてきた。
「お前、職業は何だ。」
少し棘のある言い方だ。
「鉱山労働者です。」「なんだそりゃ」
明らかに侮蔑の態度である。むかついた。
「全く、女性陛下もなぜこんな雑魚にこのような国賓級の待遇を」
今雑魚って言った
シグルドが立ち止まる。
「そうだ。一戦お手合わせ願えませんかね?鉱山労働者どの?」
もう、俺の怒りは有頂天だ。
「いいですね、お願いします。」
城の中には闘技場も備えられていた。広い。
「俺は木剣を使うけど、鉱山労働者の武器なんて城にはないから、自前の使いな」
そう言ってウィンドウから取り出した創造者の鶴嘴を投げて寄越した。俺のやつだ。
「じゃあ、行くぜ」
シグルトが体勢を低くして地面を蹴る。俺は岩の壁を作る。もう常套手段だ。シグルドが壁を回り込む。木剣の連続攻撃に対して、鶴嘴で合わせるが、ゴブリンの数倍速い。五、六発食らってしまった。
「クソっ 」
後ろに下がって距離をとり、岩を飛ばす。やすやす躱される。
「へえ、そんなこともできるんだ。」
余裕の表情だ。それなら次はもっと小さく、より速く。鶴嘴を振る。かわされた。しかもスピードを殺さずに懐に入ってきた。俺は無防備だ。左手を叩き上げられた。鶴橋が宙を舞う。
「終わりだ。」
木琴が高々と振り上げられる。ヤバイ。逃げようとして尻餅をつく。足が凍り付いていて地面から離れない。基本氷魔法『アイス』いつのまに。木剣が、振り下ろされた。
バシィン
「何をなさっているんですか?魔導龍騎殿?」
シグルドの木剣をシンヤが竹刀で受け止めていた。パジャマ姿で。
「別に、少しお手合わせ願っていただけです。」
シグルトは剣を下ろした。
「大した能力もないようで安心しました。」
「おい魔導龍騎」
深夜の声には怒気が含まれていた。
「確かにお前は強い。最終戦争でもお前の力が必要だろう。だがな、最終戦争の最大戦力はコイツだ!覚えとけ!」
シグルトはふうとため息をついた。
「なんにせよ私は守るべきものを守るだけです。」
そう言って、闘技場を後にした。二人だけ残った。
「肩、貸そうか?」
シンヤが鶴嘴を拾ってきながら言った 。
「いい、自分で立てる。歩ける」
ここで頼ったら本当に負けになる、そんな気がした。鶴嘴を受け取った。少し重いな。
宿泊室の前の廊下で、リナたちにあった。なぜか案内に行ったはずの女王陛下も寝間着姿だった。ものすごく親しげにおしゃべりしていて、リナの目は輝いているし陛下はとても優しいまなざしをしている。まるで仲の良い姉妹のようだ。あ、こっちに気づいた。
「おーいアッシュ、シンヤ」
「じゃあまたね、リナさん」
リナは返事に手をぶんぶん振った。
「じゃあ、俺は風呂入ってくるわ。」
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