第5話 「テレビ見てないとトップアイドルも誰か分からない」
結果、ゴブリンの巣で得たお金は 1/4しか残らなかった。商品の山はハンバーガーを食べていた時の倍の高さになった。俺達は丸太のように疲れた。旅立ってからずっと使っている宿屋(チェーン展開しているとは驚きだ)の一室である。しかし今はランウェイと化していた。リナが装備のウィンドウを片手に早変わりのひとりファッションショーを開催しているからだ。
「なあ、アッシュ」
同じく丸太棒のシンヤが俺に耳打ちした。そのアイディアに俺は未だかつてないほど赤面した。
「いや一応パーティーリーダーは俺だからできないこともないけど」
「じゃあやってみてよ。」
「ちょっとマズイんじゃないか?」
「1日中付き合ったんだからそれくらいの権利はあるって。」
えっと、この時俺は疲れていて、頭に血が回っていなかった。だから冷静な判断ができなかった。そうじゃなかったらこんなことはしなかったにチガイナイ。だからそんな目で見るのはやめて。俺はどこまでも紳士なんだ。
「これで全部かな〜」
一人ファッションショーを終えて、リナがウィンドウを閉じた。すかさず俺が『equip』のアイコンを押す。リナの装備が全解除になった。つまり、素っ裸になった。幸い下着類は装備に入らないらしく全裸にはなっていなかった。それでも俺は鼻血を噴出させて後ろに倒れた。シンヤは胸を凝視していた。
「っっっっっ……!!」
一瞬遅れて事態に気付いたリナの顔が真っ赤になった。次の刹那、俺たちの頬も赤くなった。手形に。勢いでやった。反省はしているが後悔はしていない。
それからリナをなだめるために小1時間以上は土下座している。リナは目も合わせてくれない。壁の方を向きながら
「男は狼だったのな…気をつけなきゃいけなかったんだな…」
とかブツブツ言っている。顔はまだ赤い。突然シンヤがカバンの中を探って赤い箱を取り出した。あれは、俺があとで食べようって方ホットアップルパイ!あとシンヤが買ってたフルーリー(コップに砕いたクッキーとソフトクリームを詰めたようなもの)それとビスケットを差し出した。
「人間失格だ…」
ぼそりとそう呟いたシンヤの態度のおかげか、リナは無言でパイを受け取って食べ始めた。よかった。少しだけ許してくれたみたいだ。まだ壁の方を向いているけど。
「部屋、分けてくれ」
リナは真面目になると語尾の『な』が消える癖がある。なんか完全に信用を失ったみたいだ。
* *
結果としてリナさんの半裸を見ることになったけど、それが目的ではないので、念のため。ただ、正直若干生唾飲んだ。結果、最悪だ。この事実をどうすればいいんだろう?リナにはいずれ言わなきゃいけないんだろうけど、アッシュはこれを聞いたらどんな顔するんだろう?やっぱり怒るだろうか?正直、自分でも腹立たしい。とか考えてたら平手打ちが飛んできた。クリーンヒット。そして我に返った。あれ?まずくね?俺の今回の行動は、要約すれば女の子の服を不意打ちで引っぺがしたってことだよね?俺の両頬が赤くなったのは平手打ちのせいだけではない。冷静になった俺に今度は右から平手打ちが飛んできた。だめ押しの一撃で心が折れた俺は、すさまじい勢いで土下座した。
「これにはワケが…」
はて、なんと言い訳をしよう。本当の目的を素直に言えば『服を脱いで胸の辺りを見せてもらいたかった。』…だめだ。これじゃ完全に変態だ。俺は額を床にこすりつけることにした。これしか今は思いつかない。ただリナは見ていなかった。壁の方を向いて、
「男は狼だったのな……」
とつぶやいている。失望が冷気となって発散されている。かなり怖い。
頭を床にこすりつけ始めて1時間くらい経っただろうか。俺にようやく天啓が降りてきた。やっぱり本は読むものだ。カバンからありったけの甘いものを出す。フルーリーは楽しみにしてたけど仕方ない。女性が怒っているときは甘いものを食べさせるといいって書いてあったのは…そうだ
「人間失格だ…」
心の声がつい漏れてしまっていたらしい。隣で同じく土下座していたアッシュがあとで
「そんなに気にすることじゃないよ」
って励ましてくれた。リナの怒りは少し和らいだようだ。それでも部屋を分けられたけど。
* *
俺に残されたもの。ブレザー、六対の翼、竹刀、少し狂った腕時計。もっとも翼はもう二枚使ってから五対しか残っていない。これで何ができるか。一晩中考えてみたけれど、あまり良いアイデアは浮かばなかった。翌朝、リナも俺達の部屋に呼ぶ。
「少しやりたくなかったんだけど、時間がない。強行突破するからついてきて。」
「昨日と言ってること違くない?」
俺は表情筋を総動員してアッシュに微笑んだ。笑う事がこんなに疲れるものだと。
「事情が変わったんだ。」
それから宿屋を出た。少し心配していたけれどリナもついてきてくれてる。FF国は都会だけど、この辺りは郊外といった感じだ。
「そういえば、昨日から気になってたんだけど、これ何?」
アッシュが鉄製の門を叩きながら言った。ギクっとした。
「門だろ」
「開くの?」
「開いたらどうなると思う?」
気になるのも無理はない。謎めいているから。門の向こうには何もない。家も、神社も。
「まあ、開かないんだけどね」
俺はちょうど門の中央にある丸い3つのくぼみに指を這わせながら言った。
「先に進むよ。時間がないんだから。」
そういえばアッシュたちには行先を教えてなかったっけ。まあ教えたら止められるだろうから教えないけど。ビル街を突っ切って、早足で歩いていく。ショーウインドーとかも今日は無視だ。この街は随分変わった。唯一変わっていないもの、それが今日の目的地。どれくらい歩いただろうか、左右のビルが消えて目的地が見えた。そこだけ中世ヨーロッパのようだ。
「えっ、ちょっと待って。」
アッシュは気付いたみたいだな。
「もしかして、王宮に向かっているのか?」
「そうだけど」
「まてまて、冷静になれ…」
「時間がないんだよ!!」
俺の剣幕に押されてかアッシュは言葉を飲んだ。門番たちが止めに来る。
「そこの君たち!止まりなさい!」
翼の力を解放する。ずっと調子悪いけど、どのくらいもつだろうか。息を大きく吸い、叫ぶ。
「『ひれ伏せ!!』」
門番が地面に倒れた。いや、平伏したんだ。
「走るぞ!」
翼を羽ばたかせ、城の中を疾走した。廊下を走っちゃいけないとか知ったこっちゃない。途中、兵士にも出くわしたけど、全員平伏したからスルーだ。奥に行くにつれて兵士の平服が五体投地から土下座になっている。だんだん強くなっている証だ。いくつかの廊下と階段を過ぎて、見覚えのある扉に着いた。玉座の間だ。ここまで強行突破できたけれど、ここまで来ればこっちのもんだ。帰る時は大手をふって帰れるだろう。扉の前の番兵は立膝をして道を開けた。俺は勢いよく扉を開けた。大きな音がしたし、失礼だけど急いでいるから仕方がない。扉の向こうには意外な光景が広がっていた。左右に控えているのは多分近衛兵だろう。とすれば中央にいる少女は親衛隊長か!ただ、肝心の国王が見当たらない。変だな、ひと目でそれとわかる外見をしているのに。まずいな、国王の特赦がなかったら、ここまでの暴挙はどんだけの罪に問われるんだろう?少し遅れてアッシュとリナも玉座の前に入ってきた。大分息があがっている。俺は中央にいる少女に近づいて言った。
「すみません国王陛下にお目通り願いたいのですが、陛下はどこですか?親衛隊長殿?」
近づいてみると、美しい少女だった。太陽のように鮮やかな黄色のドレスに、腰まであるピンク色の髪はゆるいウェーブがかかっている。メガネの奥の瞳には今にも吸い込まれそうだ。どっかで見た気がするな…
「親衛隊長殿?」「おい。」
右の列の端にいる男が声を上げた。そういやこいつらは直立不動だな。相当なものなんだろう。まあ、そこから動けないんだろうけど。
「親衛隊長は俺だ。」
そういえば、この15、6歳の男は確かに見覚えがあった。金髪主人公ヘアーが印象的だ。
「確か、西の広場でお見かけしましたね。あの魔導龍騎はあなたでしたか。で陛下はどこですか?」
目の前の少女がため息をつく。
「私もまだまだですね。ここまで知名度が低いとは…」
「あの、国王陛下…」
「「バカヤロウ!!」」
後頭部と肩に衝撃が走った。リナとアッシュのコンビネーションハイキックだ。
「「彼女こそ」」「この御方が」「私が」
「「「「FF王国二代目当主」」」」
「カーネル・マクドナルド3世です」
「……はえ!?」
翼は四散した。
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