第4話 「女性の買い物に付き合うのって大変だよな」
* *
「次はK国M国に行くよ。」
……古いな。
「K国とM国は30年前に併合してFF国になっただろ?」
あの事件によって。
「FFって……ファイナルファンタジー?」
「何それ?」
「いや、何でもない」
あれだけの重症も宿屋で一晩寝れば綺麗に治っている。そんなわけで俺たちは昨日の宿屋の同じ一室で顔を突き合わせている。
「FF?FFに行くのな?行くのだな?」
リナが急き込んで言った。
「ていうか、なんでFF……」
「余計なこと言うな!」
……一喝された。
「で、行くんだよな?」
「あ、ああ。行くつもりですが?」
キャッホーイと言ってリナは腕を振って踊り出した。
「なんであんなにはしゃいでんの?」
ん?ああ。
「FF国は文字通り世界の中心だろ?そりゃテンションも上がるだろ。」
「いや、でも……」
「それよりなんでFF国?」
「世界の中心だろ?これからどこに行くにもあそこ通るだろ。」
まあ、そうか。シンヤの回答は的を射ていた。
* *
「いつまでも踊ってないでそろそろ出発しましょう。」
なんか出発の号令はいつも俺が欠けている気がする。そうだなあと言ってリナは踊りを締めくくった。
「まあ、まずは村長のところだね。」
そういえば、リナと比べてアッシュのテンション低くないか?なんでだろ?なんてことを考えているうちに村長の家についた。入る。
「たつた」(ゴブリン討伐は無事すみましたか)
本当は無事とは言い難いけれど、それを今言っても仕方がない。あの黒いやつについては誰に聞いても無駄だろう。俺ですらよくわかってないんだから。
「はい」
「竜田。」(ではFF国に行くのですね)
「はい」
「竜田」(リアに案内をさせましょう。)
「そうですね。陸路は大変そうだ。」
リナの才能は思った以上だった。でも、こいつらはまだ駆け出しなんだ。助っ人は多いに越したことはない。
「リアさん、よろしくお願いします。」
「こちらこそ」
テレテテッテッテー。リアが仲間になった。旅人のパーティーは基本的に四人だ。今これでフルメンバーになったというわけだ。リアが近づき、すれ違う。俺はリアに言った。
「竜田。」(リア、30年前のこと覚えてるか?)
「それはどういう意味ですか?」
* *
「照り返しが暑い……」
そんなこと言うならブレザー脱げよ。でもやっぱり暑い。FF国の周囲には30年前まで続いた大戦の巻き添えを食った小国が廃墟となって残っている。
「レジストかけましょうか?」
「いや、俺は生まれつきヒートレジストだからいいや。」
レジストは属性耐久の呪文だ。村長が付けてくれたリアはとても頼りになった。基本は格闘家だが、ヒールやレジストのような白魔法も使える。戦闘面でもとても強く、ここまで来る間に遭遇したゾンビの半分はリアが倒している。
「アッシュさんは?」
「じゃあ、お願いします。」
オーソドックスな十字式の魔法陣が足元に現れた。汗がすっと引く。
「俺もお願いするのな」
同じことをリナにもした。
「すごいですねリアさん。そんなに……」
となりにあった廃屋の壁が崩れた。その中では妙なことが起きていた。魔物同士が戦うことは、多くはないが珍しくもない。ゾンビもこの辺りにはよくいる。だが相手は何だ?イカである。廃墟にイカがいる。そんなはずはないだが。どう見てもイカだ。
「なんだあれ?」
「イカだな」
イカがゾンビのだら〜ん攻撃をかわす。イカのゲソがゾンビを貫いた。ゾンビは一瞬苦しみ、イカになった。シンヤの目の色が変わった。
「大したことないけど、カタしておくか。」
シンヤが竹刀を構える。ボスゴブリンを倒した時のあの構え。
バンッ
破裂音とともにイカは雲散霧消した。シンヤは何もしていない。リアさんだ。ものすごい踏み込みでイカに正拳突きをくらわせたらしい。二匹同時に正拳突きって……
「さあ、先に進みましょうか。」
面食らっている俺達を、リアさんは爽やかに促した。
* *
廃墟を抜けるのに歩いて1日かかった。野宿もした。それでも俺たちはとうとうM国、もといFF国にたどり着いた。
「すごい…」
俺は言葉を失った。「都会」がそこにあった。天を衝く摩天楼、きらびやかなショーウィンドウ、巨大画面には今流行っているのであろうアイドルが何かのcmをしていて、そして何より人、人、人。
「これだけの都会に車が一台も無いのは不思議な感じがする……」
この世界ができたわけを考えれば無理もないことではあったが。
「では私はこの辺りで。」
リアが別れを告げた。
「これから帰るのな?」
「いえ、せっかくなので少し首都を回って帰ろうと思います。」
旅が好きなので、と言った。
「それなら一緒に来てくださればいいのに。」
すっかり警戒心をなくしたアッシュが言った。クソ、油断しやがって。
「これはあなたたちの旅ですから。」
一礼して、呪文を唱える。リアの足元の魔法陣が少し周囲を明るくした。
「リアさんは世界を守らないんですか?」
シンヤの問いかけにリアが目を上げた。
「それはあなたたちの仕事です。」
そういったリアを光が包み込み、リアは姿を消した。
「…あの魔法でくれば楽だったんじゃないかな?」
もっともだ。
* *
「おっほん」
背後で咳払いが聞こえた。恐る恐る振り返る。リナの目が輝いていた。ものすごく、輝いていた。これだから嫌だったんだ。
「じゃあ、これから行きたい所のリストを発表するな。」
こいつ、リストまで用意してたのか。
「だめだ、だめだ。観光に来たわけじゃないんだから。」
不満の声を上げるリナに対して続ける。
「世界が終わるまであと一ヶ月しかないんだ。そんなことしてる余裕はない!なっシンヤ?」
「いや、別にいいだろ」
何ィ!!
「今は夏休みなのだぜ?それにちょうどゴブリンのところでお金も入ったわけだし。少し遊んだって、そんなことでバチを当てる神様々なんて何処にも居やしないよ。」
ヤターとリナが飛び上がっている。俺は肩を地下3階まで落としながらシンヤを睨んだ。
「じゃ、まずは……」
バララララ、と音をさせて蛇腹状だったリストを開いた。リナが両腕をめいっぱい広げてもたるんでいる。シンヤは絶句した。俺はため息を吐こう。
それから3時間後、紳士のたしなみ(女性の荷物運び)に疲れた俺たちは世界一店舗数の多いハンバーガーショップにの椅子に倒れ込んでいた。
「…なんか、すまない。」
シンヤがポツリと呟いた。横には膝の高さまである商品の山がある。
「いや、いいよ」
目の前では疲れ切った俺たちとは対照的に、元気百倍、嬉々として二段重ねのハンバーガーにかぶりついているリナがいる。その輝くような笑顔を見られただけでも充分だ。俺の足元にも同じくらいの大きさの山があった。中身はどっちも概ね服である。いくら高級店は素通りしたとは言えこんなに買えるとは。あの宝箱は思っていたより大金だったらしい。
「んっふ〜。それじゃ、次行くかな〜。」
ジュースを飲み干したリナが立ち上がった。
「「えっ!?」」
まだ行くの?
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