第6話 ジョブ・ディスクリプション

こちらで一度、日本人だけのなかで働く、ある仕事への採用が決まって、その仕事をもう少しで始めようというとき、嫌な予感がしてその仕事を断った経験がある。その予感とは、ぼくが予想していた以上の量の仕事をやらされそうになったということだ。そのような量の仕事は、募集広告には見当たらない。つまり、こちらの善意を頼って採用者はぼくにそのような量の仕事を任せようとしていた。こちらに住んでいても、日本人はあくまで日本的習慣や心性をキープし続けようとする。この件でも、ぼくは妻のアドバイスでジョブ・ディスクリプションを採用者に要求することにした。ジョブ・ディスクリプションとは、各自の仕事内容を項目別に箇条書きにしたものだ。こちらでは仕事に採用される場合、かならずそのようなものが手渡される(現在は、紙媒体のものとしてはもはや印刷されない場合が多い)。ジョブ・ディスクリプションを渡す目的とは、仕事の範囲を明確にし、労働者が必要以上の仕事をするような状況を作らないことだ。日本人だけの仕事の採用者にジョブ・ディスクリプションを要求した結果、予想どおり、どうやらそのようなものは用意していないようだった。日本の労働観、労働環境の劣悪さを思い出させる経験だった。

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