第6話


「三十分くらいでこれるみたいじゃぞ」


 能天気なサの言葉にぼく愕然がくぜんとした。犬飼いぬかいさんがぼくうちにやって来る? それも三十分後に? 


 ぼく部屋へやの中を見回した。昨日きのうのまんまの散らかった部屋へやがそこにはあった。


「まずいな......」


「キレイにせんと小春が可哀想かわいそうじゃよ」


 そんなのはわかっている。問題はタイムリミットまでに間に合うかどうかだ。


 ぼくは一度深呼吸をすると、決意を固めた。


晃太こうた。ここもきたない」


「わかってるよ!」


 サヨちゃんに指示を受けながら、ぼくはすぐに部屋へや掃除そうじに取りかかった。掃除そうじというのは不思議なもので、すればするだけよごれが見つかる。


 本当に、こんな部屋へやでよく暮らしてきたなと思うほどに、部屋へやの中はきたなかった。


「ここもよごれとるぞ」


 サヨちゃんの音頭おんどぼくよごれを発見し、掃除そうじをする。今、掃除そうじして思うことはただ一つ。


 ぼく部屋へやきたないな!


「ああもう、早ようせんと小春が来てしまうぞ!」


「やばい!」


 あせる気持ちと反比例してぼく部屋へやはなかなかキレイにならない。どうして普段ふだんから掃除そうじをしてないんだよ。昔のぼく


「ところで晃太こうた。小春とはいったいどこのむすめなんじゃ?」


「え、犬飼いぬかいさん? 犬飼いぬかいさんはぼく同僚どうりょうの人だよ」


 ぼくはキッチンの廊下ろうか雑巾ぞうきんきながら答えた。犬飼いぬかいさんと出会って、もう三年が経過しようとしている。


「ほお、じゃあ晃太こうたがいつもお世話になっているな。うちも挨拶あいさつせんとな」


「なにもしなくて良いから! 本当に、大丈夫だいじょうぶだからね!」


「そうかの?」


 少々不服そうなサヨちゃんをよそに、ぼく黙々もくもく掃除そうじを続けた。食器を洗い、シンクのよごれを取り除く。そして、窓を最大まで開けると空気の換気かんきを行った。外から流れてくる新鮮しんせんな空気にぼくの心も少々落ち着いた。


 そうこうしている内にぼくのスマホがブルブルとふるえた。


「あっ、小春からじゃ!」


「え? もう来たの?」


 サヨちゃんは電話に出ようとスマホに向かって奮闘ふんとうしていたが出れないので、ぼくが代わりにやってあげた。


「小春ちゃん? 今どこじゃ? うん。うん。待っとれ、すぐに行くから!」


 サヨちゃんは玄関げんかんまでけていくと勢いよく出ていった。


 玄関げんかんの戸がキキキと音を立てて閉じた。


 今さらだけど、サヨちゃんはぼくのおばあちゃんで幽霊ゆうれいなんだよな? なんだか幽霊ゆうれい感全然ないなあ。玄関げんかんだって手で開けていたし。本当に幽霊ゆうれいなのかな。


 そんなサヨちゃんへの疑惑ぎわくも、犬飼いぬかいさんがやって来たことで忘れてしまった。

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