第5話

 ぼくはサヨちゃんの様子から、向こうの犬飼いぬかいさんを想像した。今犬飼いぬかいさんはどこで電話をとったのだろうか。自分の部屋へやだろうか? だとしたら、どんな家なんだろう。


 きっとピンク色のかわいい部屋へや今朝けさのコーヒーを飲みながら映画とか見ていそうだな。映画はなんだろう? ホラー映画とか好きそうだな。


 休日はいつも何をしているんだろうか。駅前でショッピングとか? 新作の洋服とかチェックして買いに行ってそう。仲の良い友達ともだち一緒いっしょに。それから、知らない街に向かってからの食べ歩き。犬飼いぬかいさんって結構食べるの好きそう。


 あとは、自前のロードバイクなんか持ってて、五十キロくらい優雅ゆうがにサイクリングしてそう。颯爽さっそうと走っていく彼女かのじょの姿を見つけたらきっとみんなくだろうなあ。


 それから、それから、それから......。


晃太こうた!」


 サヨちゃんの声で、現実にもどされた。


「聞いておるのか?」


「え? うん、聞いてるよ」


「なら、良いかのう?」


 なにが良いんだろう。


「ええ? まあ、良いんじゃない?」


 よく分かってないけど。スカイツリーに連れていけとか?


 サヨちゃんはうれしそうに電話にもどった。


晃太こうたもおっけしてくれたぞ。うん、うん。そうじゃ、○△駅を降りて、川沿いに歩いていくんじゃ。近くになったらうちがむかえに行くから安心しい。うん、うん。じゃあまた後でな」


 いったいなんの会話をしていたんだろうか? ぼくはとんでもない不安にられた。


 電話を切った(正確には犬飼いぬかいさんが電話を切った)サヨちゃんはとてもうれしそうにウキウキとスキップなんかをしている。


 ぼくは勇気をしぼって声をかけた。


「あの、サヨちゃん? 今、犬飼いぬかいさんとなんか約束した?」


「うん。なんと小春がうちに来て『雨あがる』のデーブイデーを見せてくれるらしいんじゃ。小春はいいむすめじゃのう。なんじゃ晃太こうた、そんな顔をして。晃太こうたもおっけしてくれたじゃろ?」


 えっと、それはつまり......?


「これから犬飼いぬかいさんがぼくうちに来るってこと?」


 サヨちゃんは「さっきからそうゆうておるじゃろ」とあきがおでそういった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る