第2話

  ○


 少女は七五三の時に着るようなな着物を身につけている。おかっぱ頭からうかがけるその顔は丸顔。足も丸いし手も丸い。唯一ゆいいつ口元だけが四角くとがっていた。


 彼女かのじょはプールにかぶように、ぼくの頭の上をプカプカといていた。それはそれは、気持ち良さそうに。


「おお、やっとこっちを見たか」


 彼女かのじょは満足そうにうなずくと、泳いでいるようにバタバタと足をばたつかせぼくの目の前まで近づいてきた。


「こんな時間にまでているなどと、少々たるんでおるぞ、晃太こうた!」


 彼女かのじょは少々いかめしい顔をして(少女なので全然すごみはなかったが)ぼくの名前をさけんだ。


 ぼくは自分の脳みそが心配になった。


「しかも、この部屋へやの散らかり様はなんじゃ。さては晃太こうた、お前まだ童貞どうていじゃな?」


 どうして部屋へやきたないと童貞どうていなのかはなぞとして、実際部屋べやはすごくよごれていた。


「まったく。男の独り暮らしはダメダメじゃな。うちのじいちゃんも若いころな、うちが入院したときに一ヶ月くらい一人ひとりで暮らしとったんじゃが、帰ってくるとそりゃあもうひどいもんじゃった」


 なんだかぼくのせいでおじいちゃんまで批難されることになってしまった。ごめんなさい、どこかのおじいちゃん。


 文句をこぼす彼女かのじょさえぎるようにして、ぼくはずっと気になっていたことを口にした。


「あの、どちら様ですか?」


 ふわふわとかんでいる彼女かのじょの存在はおそらくあれなので、バチ当たりなのを承知で聞いてみた。


 彼女かのじょは信じられないという顔でこちらを見ている。いかりのせいだろうかプルプルと身体がふるえている。


 これってもしかしてしくじったパターンですか? 地獄じごくに落とされたりする感じ? それか、一生童貞どうていのろいをかけられるとか。


だれって、お前のおばあちゃんのサじゃろうが」


「......はい?」


 じゃろうがって言われても......。


 みょう威張いばった態度のおばあちゃんが、幽霊ゆうれいとなって現れた。

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