初体験の帰り道


 女の子と一緒に帰るのなんて初めてだ。


 しかも、相手は転校初日の美少女。


 めちゃくちゃ可愛い。

 ライトブルーのお洒落な制服がより一層彼女を引き立たせる。


 「リク。目立つ?」

 「めちゃめちゃ目立つ!」

 「転校してきたばかりだから仕方ないし、ヒマリは何も悪くない」

 「まぁ、そうだけど……。とりあえず、もう少し離れて歩いてほしい。近すぎる!」


 星奈は僕の真横にピタリとついている。


 「話をするならこれくらいの距離がいいし、微妙に離れてもそれはそれで目立つものでしょ?」


 正論だ。


 そうだ。この娘はプラトンなんだ。

 落ち着いて対応しよう。


 「プラトン。じゃあ君が先に行ってくれ。僕は少し距離を置いて後ろから見守っているから」

 「リク。呼び名は『ヒマリ』にしてほしい」

 「へ?」


 そんなこと言われると、ドキドキする。


 「リク。顔を赤くして恥ずかしがっている暇はないよ。周りから見たら、私は『星奈ヒマリ』なんだから」


 確かに。

 だけど、感情と理性がバラバラに引き裂かれる思いだ!


 「じゃあせめて、『星奈さん』って呼んでもいい?」

 「もちろん! 私は『リク』でいいの?」

 「いや……」


 恥ずかしいけど、ここで『綾戸くん』に戻るのも……。


 「『リク』でいいよ」


 しまった。理性より感情がまさってしまった。


 「リク。でも君が『星奈さん』と呼ぶのに、私だけ呼び捨てで呼ぶのはおかしくないの?」

 「……じゃあ、『星奈』にする」


 正論だ。


 そして彼女はおどけて笑った。

 可愛いすぎる。

 もう彼女がプラトンでも何でもいい! そう思えるくらい。


 「あとさっきの提案だけど、少し距離を置いて後ろから見守ってもらいながら歩くのは、逆に怪しくない?」


 確かに。


 「……じゃあ、隣でいいよ」

 「リク、ありがとう。『人間のことはなににてあれ、大いなる心労に値せず』」

 「え?」


 


 「人間として一緒に生きていくことは、それがどんな困難な道だろうと苦しみなんかじゃないってこと」




 面倒なことが大嫌いで、人を避けてきた僕には、プラトンの言葉が突き刺さる。


 「リク。ヒマリを愛して」


 いやいや! それは直球すぎるでしょ!!

 彼女は焦る僕を見て、またおどけて笑った。


 「リク。冗談。」

 「からかってるだろ!」


 一体どこからどこまでが計算なのだろうか?


 「リク。あと一時間で《ヒマリが帰ってくる》から、心の準備をしておいてね」


 は! そうだ。

 彼女が《哲学者》になっている時間は二時間だった。

 しかも、星奈はその間の記憶がない。


 どうしよう……



 こうして僕はいつも一人の帰り道を、《彼女》という存在に頭を抱えながら、二人一緒に帰ることになった——



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