美少女は「哲学者」だった
ライトブルーの制服を着た星奈は、しゃがんだままゆっくり僕の方を向いてこう言った。
「リクくん、初めまして」
「え?」
「私はプラトンです」
「……は?」
プラトン? ……なにそれ? あだ名?
だとしても、ハイブローすぎるだろ……
星奈は、ニャン吉の頭を「よしよし」と撫でてスッと立ち上がった。そして、僕の方に歩いてきて、目の前で立ち止まった。美少女が僕の目をジッと見ている。
……近い! 顔が近すぎるよ!
「リク。『始まりは、全体の半ばである』」
へ? なにそれ?
しかも呼び捨て!?
星奈はやはり真顔で僕の目をジッと見つめている。
めちゃくちゃ可愛いし、言ってることめちゃくちゃだし、どうしたらいいのかわからない。
「リク。こうして“始まった”ということは、もう私たちの関係は、“半分”まで来てしまってる」
え? “始まった”って何が?
僕と星奈との関係が“半分まで来てる”? どういうこと?
「ふふふ。混乱してる? 要するに、君と私がこうして出会ってしまった瞬間に、もう物事は半ばまで進んでいるの。自己紹介がまだ十分じゃなかったから、もう一度きちんと言わせて。
私の名前は《プラトン》。古代ギリシア時代の哲学者。名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
僕は唖然とした。
そんなわけはない。
「賢者は、話すべきことがあるから口を開く。愚者は、話さずにはいられないから口を開く」
星奈、いや、プラトンはそう言って、事の経緯をわかりやすく話してくれた。
要約すると、こういうことだ。
星奈ヒマリの中には、プラトンを始め《7人の哲学者》の人格が宿っていること
それは星奈が中学2年生の時に、突然起きたということ(理由は不明)
星奈が《哲学者》になるのは、感情が高まった瞬間だということ(時間は2時間)
どの哲学者が出てくるかは分からないということ
《7人の哲学者》は星奈ヒマリのこの変な状況をみんな理解していて、いつも初めての出会いが起きると、丁寧に説明しているということ
そして星奈自身は、《哲学者》になっている間、その時間の記憶がないということ
でも、星奈は自分の状況を知っているということ(周りの友達に驚かれた経験から)
そのせいで友達がいなくなってしまったこと
だから、僕に「星奈の味方になってあげてほしい」ということ。
顔も声も《星奈ヒマリ》そのものなのに、その理路整然とした話しぶりに引き込まれていった。
確かに、作り話にしては話が出来すぎている。
「リク。『賢者は、話すべきことがあるから口を開く』。もうわかるでしょ?」
彼女(いや、彼?)はそう言って、僕に握手を求めた。
見た目はどう見ても、星奈だ。
僕は、その小さな手を握った。
「リク。ありがとう! そうと決まったら、一緒に帰ろう!」
え? 一緒に!?
「ヒマリのことを守ってくれないと。もし私が変なことをし始めたら、リクがそれを止める役割だから」
「変なことって、何ですか?」
「ほら。私もこの町は初めてだから、ドキドキしてるんだ」
そんなこと、星野の体で言われると……
反則だ!!
「リク。それと、敬語は禁止。私たちの関係が怪しまれるからね」
いや、転校初日から君みたいな美少女と一緒に帰ってたら、それだけで怪しまれるわ!
心の中でそうツッコミながらも、とりあえず「わかった」とだけ返事をした。
《プラトン》は、強引だ。
そう言うと、星奈はもう一度ニャン吉の頭を撫でに行った。
「珍しい猫だ。近づいても逃げない」
ライトブルーの可愛い制服を着て、不思議そうに猫を見つめる彼女を見て、僕はそうとう戸惑っていた——
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