第23話 結ばれる二人
それはともかく、僕たちはサンドイッチを食べながら話し始める。
「どう?俺の絵?あんまり進歩がないでしょう」
まいちゃんはサンドイッチに手をつけずに一心不乱に俺の絵を見ている。
「うん、そうだね。あんまり変わらない。書いた絵は20枚だけ?」
「あ、うん。そうなんだよね。実はiPad注文したんだけどさ、まだ届いていないんだよね。ほら、コロナは中国でゴタゴタがあった関係か、アップルの部品の何割かは中国だろ?で、国も今はマスクを大量生産中だし、なかなか部品の目処が立っていないし、飛行機の空輸も本数が減っているみたいだから、すぐには届きそうもないんだ」
「ふーん」
それでも一心不乱に俺の絵を見る、まいちゃん。俺は今まで思っていたあることを聞いた。
「まいちゃんは彼氏と付き合っていくの?」
「行かない」
「え!?」
思わず、まいちゃんの顔を見つめる。まいちゃんは俺の方を見ていた。
「彼とは別れることにする」
「そうか」
安堵感(あんどかん)が自然と溢れた(こぼれた)。
「もう結論は出たんだね?」
それにコクリと頷くまいちゃん。
「私、ちゃんとした女性になりたかったの」
「うん」
「そのちゃんとした女性というのは愛するものが困っていれば無条件で愛を与える女性というのも含んでいた」
「うん」
「でも・・・・・」
「でも?」
まいちゃんは天を仰ぐ。
「でも、なんかそういう理屈よりも単純に彼のことに愛想をつかしている自分を再発見したの。ああ、ダメだな、これは、と思って」
まいちゃんは神社の方を向いた。俺もその方向を見る。
ここの神社はかなりしょぼくれていた神職がおらず、ただ単に小屋のような御神殿が置かれた場所でしかない。
少なくとも俺はこの地に神が宿るとか、荘厳(そうごん)な気持ちになるとか考えつかなかった。
「そうか」
「うん」
「俺には彼女がいなかったから想像することは難しいけど」
「・・・・・・」
「今日のまいちゃん、なんか元気そうだよ」
「え?」
まいちゃんが思わず俺の方を見る。
「私、元気そうだった?」
「ああ、いつも元気そうだけど?悩みを打ち明けたときには確かに落ち込んでいたけど、いつも明るいじゃないか?」
それにまいちゃんが俯く(うつむく)。
「そうか、私元気だったんだ・・・・・・・」
本人は自分が元気なイメージを持っていなかったのかも。すごく悩んでいる人も、他人がいる前には元気そうに振る舞うのはよく聞く話だ。
まいちゃんがこちらを向く。
「私が元気そうに見えたのはたかくんのおかげだよ。たかくんと一緒に思い出話に咲かせられるから元気そうに見えたんだよ、私」
「なら、いつも元気にならないか?」
「え?」
まいちゃんが怪訝(けげん)な表情をする。
俺は真剣な表情で言った。
「俺もだ、まいちゃん。俺も、まいちゃんのそばにいると楽しい。笑顔が自然に溢れる(あふれる)。そう言う日々を積み重ねていくと、俺は気づいたんだ。俺はまいちゃんのことが好きだと言うことに。まいちゃん、好きです。付き合ってください!俺ならいつもまいちゃんを元気にできるよ」
そう言って俺は頭を下げた。下げたまま姿勢がぴくりとも動かさなかった。
いったいいくつ時間が過ぎたであろう。俺は告白した瞬間、まるで無限の牢獄(ろうごく)に閉じ込められたような永遠の時間を味わった。
その永久の牢獄の中、ポツリと一雫(ひとしずく)の雨が降った。
「嬉しい」
「え?」
俺は頭を上げる。そこには涙を流していたまいちゃんの姿がいた。
「私もタカくんと恋人同士になれたらどんなにいいだろうって思ってた。タカくんが告白してくれないかなと思っていた。だから、こうして告白されて本当に嬉しいよ。タカくん」
「まいちゃん!」
「タカくん!」
俺たちは抱きしめあい、そして長いキスをした。最愛の人と結ばれるのがこんなに嬉しいことだとは知らなかった。
ボアが一声、吠える。
それに二人目をかわして笑いながら俺たちはボアの頭を撫でていった。
コロナで失職したら美人幼なじみと再会した件www 夏目義之 @nacht459
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