金属 世界で一つの

 カリマの資料画像を検索して出てくるのは、赤褐色の粉末だ。

 一方で、もらったロシュティオの抜け殻はくすんだ灰色だった。

 そもそも、この抜け殻に絶魔体としての役割はあるの?

 まずは、それを確かめるところからだ。

 こういう時に頼りになるのが、デノ。

「それの遮魔性を調べればいいのか」

「うん。できそう?」

「サンプル少し貰えれば、空いた時間でやっとくよ」

 丸投げして、一週間。

 デノからもらったデータでは、この抜け殻を絶魔体と呼ぶのは少し厳しいって事を示していた。

 全く、遮魔性がないわけじゃない。

 むしろ、生物由来の素材では高過ぎる程、ロシュティオの抜け殻はマナを遮断する。

 しかし、完全な絶魔体とはいかなくて、あくまでも、マナの通過を一定量遮る程度だった。

 冷静に考えると当然で、ロシュティオだって生き物だからマナの吸収を完全に遮断するような皮膚なら、そもそも生きていけない。

 でも、この半端な遮魔性はむしろ僕にとってはありがたかった。

 ルルシアを絶魔体で覆う事によって熱量を調整って情報を得た本では、その機構の説明もされていた。

 ルルシアの一部を完全に、残りの部分を開閉可能な絶魔体で覆う事で、その開閉によって温度を調節するって方法。

 その方法は結構、複雑な機構になっていて、その上、カリマって金属は素材として脆い部分があって、定着させたとしても使用によって少しずつ、剥がれてしまう。

 これらの難点をロシュティオの抜け殻は解決するように思えたんだ。

 ルルシアの温度調節って、要はマナの量を変化できればいいんだし。

 なにより、幸いなことに、ロシュティオの抜け殻はびっくりするくらい丈夫だった。

 流石は魔物の素材だ。

 

 色々と試した結果、僕はこたつとして最適な温度を提供できる機構を作り上げた。

 フレームが作り直しになっちゃったけどね。

 先ず、あんまり得意じゃない裁縫技術を使って、ロシュティオの抜け殻を一枚の布みたいにした。

 そして、ルルシアに一周巻いて固定する。

 これだけで、ルルシアの温度はかなり落ち着いて、だいたい百度前後になった。

 あとは、適度な温度になるように、適時ルルシアに抜け殻を巻いていけばいい。

 ルルシアの両端に金具を取り付けて、回転できるようにする。

 その隣にロシュティオの抜け殻のロールをつけて、ルルシアと繋げる。

 ルルシアを回すとロシュティオの抜け殻が巻き付いて、温度を下げるし、逆に回せば離れて温度が上がる。

 正直に言うと、これを作るのはかなり大変だった。

 僕は不器用だから、フレームをもう一回作り直すとか、ちゃんとルルシアを固定する仕組みを作るとか、滑らかに回転する機構が必要とか、ほとんど不可能なんじゃないかって思えた。

 あんまりにも、僕が苦労してるから、見かねたデノがかなり助けてくれたんだ。

 もし、彼の助けがなかったら、ここで断念してたかもしれない。

 心底、僕は友人に恵まれている。



 そして、ついに。

 僕のこたつは完成した!

 外からの見た目は完璧!

 中の方は、ちょっと覗いて欲しくないけど、それでも温度調節機能も搭載!

 なにより、ちゃんと暖かい!

 奇しくも、フレーム作りに苦労する中で、季節は移ろって、いつの間にか冬が迫っていた。

 一年前、進級試験の準備に追われていたのが嘘みたいだ。

 実際に入ってみる。

 僕が十二歳だったあの冬の朝、足りなかった感覚がそこにあった。

 転生してはじめて、味わうこたつの温かさは懐かしくって、新しかった。

 この世界にこたつがある!

 しかも、それは僕が一から作り上げたもので、代用品のない、世界で唯一のこたつだった。

 構想から一年半、僕のこたつはようやく完成したんだ!


 でも、浮かれてばかりはいられない。

 専科生として本当に大変なのはここからだった。 

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