金属 幻のロシュティオ
探索は二日、三日と続いて、それでも僕たちはロシュティオの影さえ捉えることができなかった。
四日目が終わって、残り滞在日数は三日。
この時点で、森の中での捜索はかなり不可能に近いって結論に至っていた。
鬱蒼とした森は少し先すら見通せなくて、その上、僕たちが歩く物音でロシュティオのような警戒心の強い魔物は逃げていく。
まるで、自分の影と追いかけっこするみたいな不毛さだ。
「ってかよ、そのカリマっての、ロシュティオが食うなら、食うとこ行って直接採ればいいじゃねぇか」
保護区での採掘は当然だけど禁止されてる。
でも、食べるところに行くってアイデアはいいものに思えた。
森と砂漠の間には小規模な山が存在していて、そこがロシュティオたちがカリマを摂取するのに使っている場所になる。
少なくとも、ここで待つ方が森の中を歩き回るよりもロシュティオに会える可能性が高い。
残り三日、僕たちはここに賭けることにしたんだ。
森からの侵入経路を広く見れる山腹の窪地に身を伏せて、ひたすら待つ。
待って、二日。
その姿に最初に気付いたのはクノンだった。
「あそこ」
物音を立てないように、ジェスチャーと口パクでクノンは僕たちにロシュティオの出現を報せる。
その姿は、恐ろしい魔物と言うよりも、痩せ細ったトカゲみたいだった。
ロシュティオは周囲を警戒しながら、俊敏に動いて、僕たちの死角へと姿を消す。
ようやくロシュティオを見られた事で、なんだか目的を果たしてしまったような達成感を感じていた。
いや、本来はその抜け殻を手に入れることが目的だから、全然果たせてないんだけどね。
ロシュティオが姿を消してから、数時間。
僕たちは息を殺して、その個体が下山するのを待ってた。
でも、一向に姿を現さない。
やがて日が陰りだして、ソラが帰還を提案した。
「夜になるとヤバいぞ」
昼間こそ、ソラの護衛付きで歩けなくもないナデユルだけど、夜は勝手が違う。
その提案に僕は頷いた。
「別の方から戻ったのかもしれないね。戻ろうか」
残念だけど仕方ない。
「その前に、上の方確認してきてもいい?」
ロシュティオが姿を消した方をクノンは指差した。
確かに気になる。
本来なら、今すぐにでも戻った方がいい時間になってたけど、ソラは渋々って感じで頷いた。
少し登って、突き出した巨大な岩を超えた先にソレはあった。
「こんなことって!」
驚きの声を上げるクノン。
僕は状況が理解出来ずに、なにも言えず。
「持って帰るか」
ソラがそう呟いた。
ソレの実物が結局僕の手元に戻ることはなかった。
ソレ。
あの日、僕たちがナデユルの山で見たものは、ロシュティオの死体だった。
より正確に言うなら、脱皮しよとして、途中で力尽きた、痩せ細ったロシュティオの死体。
これが非常に貴重な研究材料となることは、素人の僕にも一目瞭然で、それを研究機関に提供することに少しもためらいはなかった。
少なくとも、素材としてこたつ作りに使っていい代物じゃない。
きっと、ここからロシュティオの生態が色々とわかっていくと期待してる。
問題があるとすれば、カリマを手に入れるって目的からすると、完全に振り出しに戻ったって事。
いよいよ、カリマの採掘場に片っ端から連絡しないといけないらしい。
そう思っていた僕に、思いがけないサプライズが届いた。
『貴殿の貴重なサンプル提供に感謝の意を示すと共に、非常に珍しい試みの助力になることを願って』
ってメッセージを添えて。
それは、ロシュティオの死体を提供した研究機関からのもので、以前に回収されたロシュティオの抜け殻の一部だった。
今更だけど、ほんの少しだけ、こんな貴重な素材をこたつ作りに使っていいのか不安になる。
まぁ、ドラゴンの鱗まで使ってるんだから、今更だ。
僕にできることは、この好意を無駄にしないことだけだからね。
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