金属 縁の下のカリマ

 鉄は(ほぼ僕はなにもしてないけど)手に入った。

 次はカリマだ。

 はじめから、二種類の金属を集めるみたいな感じで話してたけど、実を言うと、このカリマという金属が必要だってわかったのは、こたつをいったん仮組みした後だった。

 幕板の間に、手作りの鉄フレームを設置して、ルルシアを固定する。

 多少のぐらつきはあるけど、下に落ちない程度には固定できたルルシアを見て、僕は長かったこたつ作りがようやく終わったと思った。

 見た目で言ったらほぼ完成に見えたそのこたつは、でも、一つ致命的な欠点を持っていたんだ。

 フレームが熱すぎる。

 そう、ルルシアで直接加熱される形になる鉄のフレームが、その熱伝導のよさも相まって、触ると火傷する程に熱くなっていたんだ。

 火傷しないこたつにするために、対策が必要だった。

 その対策がカリマ。

 日常で、目にすることも耳にすることもないこの金属は、でも僕たちが思っている以上にとても身近な金属でもある。

 その多くが、目に見えない場所だったり、目にしていても目立たない場所に使われていることが、その知名度の低さの原因だ。

 カリマは粉末か、もっと加工された状態で、僕たちの日常にある。

 その用途は、絶魔体。

 現代の魔道製品の多くが、カリマなしには成り立たない程、重要な素材なんだ。

 そのカリマという素材に行くつくまでには、少し遠回りが必要だった。

 初めは鉄のフレームをどうにかして、熱くしないようにする方向で模索してたんだ。

 方法は確かに、いくつかあった。

 ただ、言ってしまえばその方法は断熱って事で、その問題で僕は一度躓いている。

 簡単に手に入って、使いやすい断熱材があるなら、ドラゴンの鱗っていう特殊な素材を使うこともなかったからね。

 次に考えたのは、熱源についてだった。

 いまさら、別の熱源を用意するって事じゃなくて、そもそも、再結晶したルルシアであっても、普通に火傷するくらい熱くって、それの熱が常に発せられているのは、製品として不都合過ぎないかって話。

 かつて使われていた製品なんだから、そこら辺、どうにかする方法があってもいいじゃないかって考えたんだ。

 そうして辿り着いたのがカリマだった。

 ルルシアの表面をカリマで覆って、吸魔性を更に落とす方法が書いてあったのは、今から五十年以上前のかなり古い文献。

 その本によると、その操作をすることで、ルルシアの温度を調整できるようになるらしい。

 暖房器具なんだから、温度調節くらいできなきゃ!

(温度が低くなるなら、断熱材がそもそもいらなかったとかいう話があるかもしれない。ほら、なにごとも用心するに超したことはないって事で……無計画だとこういう事になるんだ)

 そういうわけで、カリマをどうにかして手に入れないといけない。

 でも、カリマを採掘している鉱山は生憎近場にはなかった。

 鉄ほどありふれた金属ではないみたいだ。

 遠出を決意して、いくつかの鉱山に連絡をしてみたけど、残念ながら色のいい返事はもらえなかった。

 カリマは準希少金属という区分に入る金属で、そもそもの採掘量が少ない。

 中には、盗掘を懸念して、採掘場の場所を秘密にしている企業さえあるんだ。

 つまり、よくわからない学生が突然連絡したって無理ってこと。

 カリマは諦めた方がいいかもしれない。

 さて、困ったことになった。

 困った時は彼女に相談してみるに限る。

「絶魔体を持ってる魔物とかいないかな?」

 いつも頼りになる僕の幼馴染みは、この時ばかりは首を振った。

「心当たりはないわね」

「そっか」

「そもそも、生物由来で絶魔体って滅多にないと思う。特殊生体生物でも流石に絶魔体って生物として不都合だから」

 そう、僕たち人間に限らず、全ての生物が生きるのに水や空気と同じくらいマナは必要だ。絶魔体は、そういうマナを遮断する物質。

 場合によっては毒と同じくらい、不都合な物質となる。

「そっか、それじゃ、大人しくカリマ鉱山をしらみつぶしに当たってみるよ」

「カリマ?」

「絶魔体の金属で、最初はそれにしようって思ったんだけど、少し手に入れるのが難しそうだったんだよね」

「ちょっと待って、それならお姉ちゃんが、どうにかできるかもしれないわ」

「ソラが?」

 やっぱり、僕の幼馴染みは頼りになる。

 頼りになりっぱなしで、僕が不甲斐ないくらいだ。

 

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