金属 科学か魔法か

「こんくらいあれば足りるだろ!」

「ありがとうございます」

「製鉄はどうする!」

「なんとか、考えてやってみます」

「おう! 自分でやらんと意味ないな!」

 全くその通りで、ここまでしてもらった上に、製鉄までお世話になったら、本当に観光ツアーになっちゃう。

「足らなかったら、また採り来い!」

 クナさんに見送られて、リュック一杯の鉄鉱石を持って、アイザ鉱山を後にした。


 後にしたんだけど、リュック一杯の鉄鉱石って、かなり重くって、駅の入り口からホームに辿り着くまでで、僕は体力の限界を感じてた。

「ソアラちゃん、少し手伝って」

「仕方ないわね」

 いや、一人で持って帰るのは重そう、とか言ったけど、流石の僕でも本気で女の子に手伝って貰おうとは思ってなかったんだ。

 ただ、予想以上に鉄鉱石が重かった。

 帰ってから重さを量ったら四十キロもあった、そりゃ重い。

「製鉄、なにか考えてるの?」

 やっとの思いで乗り込んだ電車の中で、ソアラちゃんが聞く。

 今回に関しては、珍しく、僕は予めその方法を(なんとなく)考えていたんだ。

 なにより、製鉄所で見せてもらったばかりだったからね。

 魔法のない世界で、ごく一般的な冶金方法は酸化還元を用いた方法だ。

 鉄鉱石を砕いて、コークスみたいな還元剤と一緒に高温で加熱する。

 鉄鉱石の大半は酸素と結びついた、酸化鉄の状態だから、こうすることで鉄から酸素を取り除くってこと。

 実際には、(製鉄所で説明されたけど)鉄に含まれる不純物を取り除く工程が、いくつか入るけどね。

 そう説明すると、ソアラちゃんは少し渋い顔をした。

「それ、できるの?」

 可能か、不可能かって話なら、僕は全く不可能だとは思っていなかった。

 製鉄に必要な温度は千二百度。

 普通なら尻込みするような高温だけど、既に僕はルルシアで三千度と向かい合った後だったし、そのくらいならなんとかなりそうだった。

 問題は、還元剤の選定と、その後の、不純物を取り除く所だと思ってたからね。

「できると思うよ」

「魔術冶金って選択肢は?」

「魔法使えないし」

「私がやろっか?」

「ソアラちゃんできるの?」

「一応、転生前はマプラエジ(※1)で技師してたのよ」

「でも、いいの?」

「貴重な経験をさせて貰ったお礼って事で」

 観光ツアーの時、僕がクナさんと話している間、ソアラちゃんはリーオさんと色々と話してたから、たぶんその事なんだと思う。

 リーオさんはアイザ鉱山の広報代表で、ファサケル村の今後の方針について相談できたみたい。

「……それじゃ、お願いしようかな」

 少しの葛藤の後、僕は提案に甘えることにした。


 魔術冶金は、現代だとあまりメジャーじゃない冶金方法になる。

 その理由は、個人に依存する形になりやすいから。

 アイザ鉱山もそうだけど、製鉄産業って、かなり大がかりなものになる。

 だから、究極的に言えば「誰でも」できるような工場形態が望ましいんだ。

 魔術冶金は、そういった産業的な考えとは真逆の方法って言える。

 個人に依存するって、その人がなにかの理由で働けなくなったり、能率が下がったりすると、それが産業全体に影響するって事だからね。

 でも、全く利点がないわけじゃない。

 魔術冶金の元になっているのは、金属魔法って呼ばれる、金属を直接操作する魔法。

 これを使うと、鉄鉱石から酸化鉄だけをかなり効率的に取り出すことができる。

 そこから、還元するプロセスも特別な設備は必要なくて、魔法だけで完結するんだ。

 環境にも優しい、理想的な方法って言える。

 難点があるとすれば、並の魔法練度じゃ話にならないくらい、操作が難しいって事。

 ある意味、これが最大の難点で、魔術冶金が個人の力に頼らなければならない理由でもある。

 魔術科の専科生かそれ以上じゃないと、使えないって話だからね。

 ソアラちゃんにお願いはしたけど、正直な話、あんまり期待はしてなかった。

 ダメ元でお願いして、それから自分の力でなんとかすればいいって考えたんだ。


※訳者注釈

※1

 マプラエジは非常に高度な魔法文明が発達した世界。

 しかし、その世界の住民全てが魔法に精通しているわけではない。

 例えば、地球は科学が発達しているが、住民全てが科学を理解しているわけではないのと同じ。

 むしろ、発達しすぎた魔法技術は人からの操作を簡便に済ませる方向の発達をしているので、平均した魔法適性は他の魔法世界からの転生に比べて僅かに低くなる。

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