金属 発破
クナさんの案内で現場を軽く見て回った後、製鉄所へと向かう。
ここまでは、完全にアイザ鉱山観光ツアーだ。
社長に案内して貰うっていう、特別ツアーだったけどね。
クナさんの説明はかなり本質的で、それでいて簡潔だった。
おかげで観光ツアーの方はかなりサクサク進んで、昼前には終わった。
「んで、なんで、そのこたつってのを自分で作ろうと思った!」
昼食は社食でクナさんの奢り。
「正直な話をすると、最初は進級試験の課題として思い付いてやっただけなんです」
「学生さんは大変だな!」
「いえ」
「んで、試験は大丈夫そうなのか!」
「試験の方は既にパスしてるんです」
「んじゃ、なんで作ってる!」
「作り始めたんで、完成させなきゃって思いまして」
「そりゃ偉い!」
「ありがとうございます。あと、自分が思ってたよりも、この試みは面白いものなのかもしれないって思ったんです」
「そりゃ、面白いだろ!」
面白いって言うのは、珍しいって意味もあるんだろうけど、僕が面白いと思ったのは「学術的」な意味でのこたつ作りだった。
僕たちは無数の製品に囲まれて生活してる。でも、その製品がどのくらいの部品からできていて、その部品がどんな素材からできているか、なんて考えもしない。
例えば、文明が滅んで、生き残った時、既存の物を加工する以上の製品を作ることができるのか?
こたつみたいな、比較的単純な作りの暖房器具ですら、かなり困難って事はこれまでの僕が証明してる。
でも、同時に、このこたつ作りは、そうなった時でも選択できる素材の種類の可能性も提示していると思うんだ。
なんて、まだまとめに入るには早すぎるけどね。
ただ、そんな話はクナさんの興味を引いたみたい。
「卒業して行く先ないならウチに来い! 即採用してやる!」
そんなありがたい言葉を貰って、昼食は終わった。
それじゃ、ここからが主目的だ。
「現場で採れる鉄鉱石は純度が低いからな!」
そう言われて案内されたのは、坑道だった。
「親父までの代はここで掘ってた! 他のやり方を知らなかったからな!」
「今は使ってないんですか?」
「おう! 量が少ねぇんだ! チマチマやるのは性に合わねぇしな!」
坑内掘りがチマチマした採掘方法なのかは、少し議論が必要かもしれないけど、露天掘りよりも気を遣う採掘方法って事は確か。
穴を掘る関係上、天井が落ちてきて生き埋めになるリスクとかも当然あるし、換気の問題もある。そういった問題を解決するために、坑内堀はかなり徹底した段階を踏んで行われるらしい。
案内された坑道はファサガラとは違って、天井が完全に支持体で覆われてた。
坑道って言うか、巨大な施設の廊下って感じだ。
そこをクナさんの運転する重機で進む。
道は幾つも別れてて、もしも迷子になったら出られそうもないけど、クナさんは迷うことなくハンドルを切る。
地図は頭の中に入ってるらしい。
「この切羽はまだ出るだろ!」
随分進んで、突き当たりに辿り着いた。
切羽って言うのは、坑道の突き当たりの事で、ここを切り崩して鉄鉱石を採るんだ。
「スコップとかで掘るんですか?」
「んなことしたら、死ぬぞ! 魔法は得意か!」
「苦手です」
「んじゃ、頑張って覚えろ!」
ここでまさかの魔法講座が始まった。
クナさんが教えてくれたのは、発破に使う爆発魔法。
幸いなことに、呪文式じゃなくて術式(※1)だったから、僕でもなんとか一時間くらいで覚えることができた(ソアラちゃんは初見で覚えたけど)。
僕に魔法を教えてくれたのは「自分の力で素材を集める」って目的を最大限尊重してくれた結果だったらしい。
「描いたら乗れ!」
「はい!」
切羽の断面に魔法を描いて、急いで重機に乗り込む。
角を曲がった所で、低い爆発音がして、地面と空気が揺れる。
どうやら、ちゃんと魔法は発動したみたい。
戻ると、切羽が少し崩れてた。
「ちょうどいいな!」
崩れた鉱石を見て、クナさんが頷く。
「ここらを、荷台に積む!」
「はい!」
鉄鉱石は茶色の石って感じで、これが鉄になるのはあんまり想像できなかった。
※訳者注釈
※1
この世界に存在する魔法で人間が個人単位で行使するものは主に二種類。
一つは、呪文を詠唱することによって発動する呪文式。
もう一つは、術を書き込む事によって発動する術式。
どちらも、マナの使用が必要だが、術式の方が形式に沿うことで発動できるので、難易度は低い。
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