金属 アイザ鉱山

「アイザ鉱山には一度行ってみたかったのよ。あそこは、実際に採掘が行われてる鉱山でありながら、それを観光地としても活用しようとしている珍しい場所で、ファサケル村で観光を成り立たせる時の参考になると思ったから」

 当日、ソアラちゃんはけっこう上機嫌で、彼女としては饒舌だった。

 もちろん、僕がアイザ鉱山に連絡をしたのは、そういう事情ではなくって、単に一番近い鉱山だったからなんだけどね。

「そう言えば、ファサガラ山の方は今、どんな感じなの?」

「調査はかなり進んでいるわね。本格的なものは今年中には終わると思うわ」

「へぇ」

「そうなったら、いよいよ観光地化に向けて動き出せるって所かしら。でも、インフラが脆弱だから、そっちの拡充が先ね。今は鉄道会社の方と本数を増やせないかの交渉をしている所よ」

 ソアラちゃんは、ルルシア湖が見付かってから、ファサケルの観光地化に関して、先頭に立って動いていた。

 クノンと言い、ソアラちゃんと言い、僕の周りの学生は、かなりアクティブだ。

 僕がこたつ一個作るのに苦労している間に、世界を動かしたり、村を変えたりしてるんだから。

 そんな感じで話している内に、アイザの駅に着いた。

 駅では、電話対応をしてくれたリーオさんが待っていた。

 スーツを着た、しっかりした大人の人って感じ。

 思えば、こたつ作りを通して、これまでしっかりした感じの人って少なかった気がする。

(色んな方面から怒られそう)

「ファムさんですね。ようこそ、アイザ鉱山へ」

「今日はよろしくお願いします。こっちは連れの」

「ソアラです。シュレ=エコルでは経済科に在籍しています。アイザ鉱山の観光地としての側面について、興味があります」

「よろしくお願いします。それでは、先に観光ルートの方をご案内しましょう」

 リーオさんの車で、アイザ鉱山へ。

 作業着に着替えて、ヘルメットを付けて、最初に案内されたのは鉱山に隣接された資料館。

 そこで、アイザ鉱山の歴史について説明される。

 ついでに、鉄鉱石の採掘方法についても。

 採掘方法は大きくわけて二種類。

 一つは、坑内掘り。

 採掘って言葉で想像するのは、たぶんこっちだと思う(少なくとも僕はそうだった)。

 山に鉱脈まで穴を掘るやり方で、ファサガラ山で用いられてたのはこれになる。

 この方法でも、今は流石につるはしで掘ったりはしないらしくて、かなり機械化が進んでいるみたい。

 もう一つは、露天掘り。

 これは地表から、地下に向かって掘っていく方法で、かなり大規模なものになる。

 アイザ鉱山で行われているのはこれ。

 資料館の後、実際に案内された採掘場は、なんだかとても奇妙な場所に思えたんだ。

 それは、既に山ではなかった。

 大きな、すり鉢状の穴が僕らの眼前にあるもので、その中を重機や人がいくつも動いている。

 あまりに穴が大きすぎて、その中で動いている重機が子供のおもちゃみたいに見えた。

 この大きな穴が、昔は山だったって言われても、想像もできない。

「こちらの採掘は、かなり終盤となっています。後数年で採掘場としては利用できなくなるでしょう」

「そしたら、アイザ鉱山は終わりですか?」

「いえ、近くに他の鉱床が既に採掘準備が始まっていますので、こちらが終了すれば、次はそちらが本格的に稼働します」

「ここって、終わったら、どうなるんですか?」

「埋め立てて、山へと再形成します。その後は、環境に適した植林を行い、森林公園としての利用が計画されています。では、下に降りてみましょうか」

 リーオさんの運転で、らせん状の道を下っていく。

 地の底へ。

 それは、なんだかかなり奇妙な感じがした。

 こんな巨大な穴を、本当に人の力で掘って、それをまた埋めて山にする。

 一人の力でできることは、とても限られているのに、それが集団となって、組織されて動くとこんな途方もないことができるんだ。

 それは、感動的でもあったし、同時に少し怖くもあった。

 地の底では、重機や人がせわしなく動いて、凄い量の土をこの穴から運び出そうとしていて、様々な音に溢れている。

「よく来たな!」

 その様々な音に負けない大声が、車から降りた僕たちを迎えた。

 声の主は、筋骨隆々なおじいさんで、ヘルメットの下の日に焼けた顔が眩しいくらいだった。

「こちらは社長のクナです」

「おう! 君がファムだな! 会えてうれしいよ!」

 クナさんは大きなゴツゴツした手で僕の手を握る。それは、仕事をしている人間の手だった。

「こちらこそ。本日はありがとうございます」

「いいって! 面白い事をする若者は好きだ!」

 このクナさんは一代でアイザ鉱山を現在の規模にまでした人。

 ついでに、製鉄所も自社経営してて、クナグループは製鉄事業だと、世界でも指折りの規模の大企業になっている。

 彼は転生前も鉱山を経営していて、その時の知識を最大限生かす形でアイザ鉱山は経営されているらしい。

 経営的な部分は触れた通りだけど、もう一つは環境的な部分。

 本来の露天掘りは、かなり環境負荷が大きな方法なんだ。

 山がそのまま一つ穴になるんだから当然なんだけど、それ以上に汚染水とかの問題があるらしい。

 クナさんはそういった問題に予め対処してから、アイザ鉱山の採掘を開始した。

 同時に、観光地としての整備も行って、知名度を上げることで、鉱山への関心を高める活動もしている。

 日常的に使う鉄が、どこから、どうやって採られているのか、それがわかれば、製品に対する意識も変わってくるからね。それは、間接的に環境保全に役立っている。

「俺は、鉱山のことしかわからねぇからよ!」

 そう言うけど、鉱山に関してクナさんはプロフェッショナルだった。

 転生前と同じ仕事をする人って、実は結構珍しいらしい。

 僕の周りだとクノンがいるから、そんな感じはしないけど、転生しても同じ仕事をするって、きっと天職なんだと思う。

 

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