金属 ありふれたもの
僕たちの生活の、ありとあらゆる所に金属は存在している。
冶金という技術は、全ての文明が発達する上で欠かせないものだ。
発達する技術形態が、魔法か科学の区別泣く、一定以上の水準に達した文明は必ず、その生活様式の中に多種類の金属とそれによる製品を必要とする。
でも、こんなに溢れかえっている金属だけど、それを個人の力で一から手に入れようとすると、驚くほどの労力が必要になるんだ。
なにより、金属の多くが、自然環境の中ではそのまま使えるような純粋な形では存在しない。
だからこそ冶金って技術が発達したんだけど。
今回、僕が目星を付けた金属は二種類。
一つは、最もポピュラーで、最もありふれていて、どの世界でも最も存在量の多い金属。
鉄。
これはルルシアを固定するためのフレームとして使う。
ここまで、散々珍しい素材を使ってきたんだけど、こういう用途ならやっぱり鉄が一番らしい。
最も普及している物が、最も優れているわけではないが、最もよい物ではある。ってこと。
もう一つは、カリマって呼ばれるもので、少し特殊な使い方をされる金属だ。
調べるまで、名前も知らなかったけど、その知名度の低さとは対照的に、思いがけず身近な金属でもある。
これの用途はまた後から解説するね。
先ずは鉄だ。
とは言え、鉄の入手については、目星がついていた。
シュレ=エコルから電車で二時間くらいの場所に、まだ現役の鉄鉱山がある。
そこに連絡をしてみたんだ。
「あの、突然すみません。シュレ=エコルの専科生のファムという者なんですが」
「ファムさんですね。観光のご予約でしょうか?」
「いえ、観光ではなくってですね。研究課題で鉄を鉄鉱石から精製したいと考えていまして、可能でしたら、そちらで鉄鉱石の採掘をさせていただけないかと」
「採掘ですか……少々、お待ちください」
この時点で、電話口の感じから、なんだかダメっぽい雰囲気が漂っていた。
断られるのは、木材の時にかなり経験したから、口調でわかるんだよね。
「お待たせしました。ファムさんと仰いましたよね」
「はい」
「間違っていたら申し訳ありませんが、その研究課題は、こたつ作りですか?」
「えっ、はい!」
「でしたら、是非」
まさかの事態だった。
ここに至るまで、確かに色々な偶然に助けられて来たけど、こたつ作りそのものが、僕を助けてくれたのは初めてだ。
実を言うと、ドラゴンの鱗の件で、クノンと僕は少しだけニュースになって、新聞にも取り上げられた。
メインはクノンだったんだけど、その過程で僕の頭の悪い試みの方にも少しだけスポットライトが当たったんだ。
鉱山の責任者が偶然それを見てて、オッケーが出たってわけ。
「はい。ありがとうございます。それじゃ、来週にお伺いします」
これ以上ないくらい、スムーズに約束を取り付けることができた。
「クノン、週末にアイザ鉱山に行くんだけど、来ない?」
今回こそは観光気分で終わりそうだったから、僕はいつものように幼馴染みに連絡を入れてみたんだ。
一人で鉄鉱石を持って帰るのは重そうだったし。
「ごめん。週末は予定が入ってるわ」
でも、ドラゴン語とその関係で一躍有名人になったクノンは、この頃かなりハードなスケジュールで動いていた。
「そっか、忙しいもんね」
「アイザ鉱山なら、ソアラと一緒に行けば? 彼女、行きたがると思うけど」
「ソアラちゃんかぁ、僕嫌われてない?」
「好かれてはいないわね」
ルルシア湖の一件の後、クノンとソアラちゃんは友達になってたけど、僕とソアラちゃんは、クノンを交えて遊びこそすれ、友達って言う関係でもないような気がしたんだ。
「いい機会だから、親睦を深めれば?」
「親睦ねぇ」
幼馴染みの顔を立てるために、一応ソアラちゃんに連絡を入れてみる。
「週末、アイザ鉱山に行くんだけど、一緒に行かない?」
「いいわよ」
まさかの二つ返事。
なんだか最近、物事が変にスムーズだ。
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