断熱材 学術的なこたつ
最初に確認しないといけない事がある。
ドラゴンの鱗は本当に断熱材として機能するのかって事。
そこで、この特殊な素材の上にルルシアを置いてみた。
普段、耐熱ケースに入れて保存しているルルシアは、下がったとは言え、常に数百度の温度を保っている。
普通に触ったりしたら、当然火傷するくらいの温度。
そんなルルシアが乗ったドラゴンの鱗を持ち上げる。
この時点で鱗の縁は全く熱くなかった。
熱伝導率が低いんだ。
その事に勇気を貰って、真下から鱗を介してルルシアを手の平の上に置いてみた。
熱くない!
伝わるのは、ルルシアの重さとザラザラとした鱗の感触だけで、温かくすらなかった。
ドラゴンの鱗の断熱力は確かだった。
これを加工すれば、断熱材として完璧になる。
ただ、ここからが大変だった。
素材としてのドラゴンの鱗は、高い柔軟性を持っていた。
ただ、塑性がまるでなかったんだ。
塑性って言うのは、例えば金属が持っている「力によって生じた変化を保つ力」の事。
これがあるから、金属は曲げたりして加工することができる。
ドラゴンの鱗にはこれが全くなかったんだ。
曲げることはできるけど、力を抜くと直ぐに元の形に戻る。
思い通りの形にしようとする時、この特性はなかなか厄介だった。
その上、柔軟なのに、切ったり、穴を開けようとする力にはかなり強い耐性を持っていて、手持ちの刃物じゃ、全く加工できなかったんだ。
この鱗の特性がドラゴンが最強の魔物たる所以の一つなんだろうけど、素材として扱うには、少し頑固過ぎる。
だから、僕は加工を諦めた。
我慢比べには勝てそうもなかったからね。
こたつの設計の方を少し弄ることにしたんだ。
本当はヒーター部に断熱加工を含めて、全て集約する形にしようと思ってた。
その方が、コンパクトだし、見栄えもいい。
でも、こたつの中の見栄えとか、どうでもよくない?
こたつの中を覗く事なんて、滅多にない。
僕の地球での経験上、こたつの中を覗く用事なんて、飼ってた猫を探す時とか、なくした物を探す時とか、くらい(あとは、ほら……少し特殊な状況とか)。
なにより、僕のこたつは手作りなんだから、見栄えなんて気にしてられない。
そういうわけで、ドラゴンの鱗は天板の下にそのまま貼り付ける事にしたんだ。
結局、断熱材が必要な理由って、テーブルを熱から守る為だったから、意味合いは一緒だしね。
気を遣った事と言えば、鱗のせいで、天板がガタガタにならないようにした所くらい。
幸い、鱗の厚みは、ほぼ一定で、個々の差もそれほどなかったから、重なり合わないように、それでいて、隙間がなくなるように、配置する。
なんだか、知育パズルみたい。
それでも微妙にガタつく所は、テーブルの方をヤスリで削って調整して、完成。
見栄えはともかく、これでテーブルは熱から守られた。
僕のこたつ作りが、数ヶ月振りにやっと進展を見せた。
しかも、想定してた残りの工程はあと一つ。
これはもう、完成したみたいなものじゃない?
そう思って、カレンダーを見たら、こたつを構想してから、ちょうど一年が経ってた。
更に具体的に言うと、半年での進捗は断熱材だけ。
これに関して言い訳をすると、僕たちが回収した鱗の利用許可が二ヶ月くらい出なかった事が原因だった。
絶滅危惧種の素材利用は、クノンに指摘されたこと以上に制約が多くて、素材利用には専門機関の許可が必要らしい。
許可については、取らなくても犯罪ではないって話だったけど、許可がない状態で使用した研究結果については、学術的な分野では使う事ができないんだって。
僕のこたつが、一応「学術的」な仮題に基づいた研究であるって、証明するのに、僕はレポートを書かないといけなかった。
その上、こたつが完成した暁には、それをレポートとしてまとめて、かつ、学会で発表もしなくちゃいけないって事になったんだ。
なんだか、大事になってきた。
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