断熱材 魔物言語研究学者

 ここからは、クノンのレポートから引用したドラゴンとの会話になる。


「貴き血、最上の強き者、どうして此処に来られたのですか?」

(貴き血、最上の強き者、はどちらもドラゴンがよく用いる自称とされているわ。他には、頂きより高き者、山の王とかがあるわね。 クノン)

「言葉を解すか、小さき者。懐かしき音にて思い出したのだ」

「此処は、貴方の住処なのでしょうか?」

「(笑う)此処は昼寝の為の場所だ。あらゆる新しき鱗の為の」

「新しき鱗」

(この言葉には若いドラゴン、新しく生え替わった鱗という意味があるの。 クノン)

「久しくしていなかったな。落としていこう」

 ドラゴンが鱗落としをする。

(鱗落としは、回転しながらの急降下によって、古い鱗を落とす、ドラゴン固有の飛行術ね。 クノン)

「古い鱗を拾ってもいいでしょうか?」

「構わん」

「ありがとうございます」

「寝る」

(ドラゴン語は多義語が多くて、「寝る」は話の終了も意味してるの。ここで更に話すと、丸焼きにされるから注意してね。 クノン)

(ドラゴンと話す機会とかないと思います。 僕)


 これが、あの日、クノンとドラゴンの間で交わされた会話だった。

 

 帰りの電車の中でクノンはかなり興奮してて、メモを取りまくりながら、僕に色々と解説してくれた。

「私の仮説が合ってたのよ! やっぱりモナタ高地は龍の羽休めだったのね。通常ドラゴンの住処は高山に限られるの。でも、ドラゴンって定住型の生物じゃなくて、回遊型の生活をするの。だから、複数の山を根城にしてて、ここもそういう場所の一つなんじゃないかって言われてたの。でも、標高がかなり低いでしょ。だから、居住区じゃなくて、公共の場なんじゃないかって、仮説を立てたの。昔から、龍の羽休めって言う言葉はあって、住んでいるようには見えないけど、ドラゴンが不定期的に立ち寄る場所って、意味で使われていたんだけど、本当の意味で羽休めだったのね」

「なるほど(わかってない)」

「一番の、収穫はドラゴン語がちゃんと通じた事ね! これだけでも、大発見よ。この世界でも、魔物言語研究はかつては行われていたみたいだけど、文献として残っているのはかなり古いものだけで、特にドラゴン語は発音は失われた部分が多かったの。だから、私の転生元世界のドラゴン語をベースに、彼らが発音しやすい音から推測して、翻訳をしてみたんだけど、ちゃんと会話になってたわよね!」

「うん、そうだね(わかってない)」

「まさか、本当に龍呼びの笛でドラゴンが来るなんて、驚きね。偶々聞こえたから来たって風だったけど、この笛の音はなにか、ドラゴンにとってなじみ深いものの音に近い可能性があるわね。なにより、来たのが、気性の穏やかなドラゴンでよかったわ。そうじゃなかったら、たぶん燃やされるか、食べられてたし」

「それは聞いてない」

「ちなみに、気性に関係なく住処に侵入したら、黒焦げにされるわよ」

「リスキー過ぎない?」

言い忘れてたけど、僕の幼馴染みが有名なのは魔物言語研究って分野で、多世界での魔物言語の共通項とか、なんかそういう研究をしているらしい。

 まぁ、言語学だけじゃなくて、生態学の分野でもまぁまぁ有名で、素材利用学の知り合いも多いらしいから、クノンは単純に魔物そのものが好きなんだと思う。


 この後、クノンのレポートによって、モナタ高地一帯は正式に保護区に指定された。

 僕たちの集めた鱗の大半は研究材料って事で、回収されて、数枚が(特例的に)僕の手元に残ったんだ。

 断熱材って分野で調べた時にドラゴンの鱗が全くヒットしなかった理由はいくつかあるらしい。

 一つ目は、素材の入手が困難すぎるってこと。

 まぁこれは当たり前だね。ドラゴン自体が貴重な存在なのに、その鱗がどういう性能を持ってるとか、研究者以外気にしたりしない。

 二つ目は、一つ目にも関係してるんだけど、ドラゴンの素材の売買が禁止されてるって事だ。

「その鱗、余っても売ろうとか考えないでね」

「なんで?」

「捕まるから。絶滅危惧に分類された生物、魔物の売買はその身体の一部でも犯罪になるからね」

「それは知らなかったよ」

 こういう理由から、商業利用もできないわけ。だから、断熱材としての効果がどうであろうが、ドラゴンの鱗を断熱材として扱う情報は普通にアクセスできるような場所にはないって事。

 論文まで探せば、きっとあるんだろうけど、そんな考えは思い付かなかったんだ。

 そんな、貴重な素材を手に入れちゃった。

 さて、これをどうしよう?

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る