断熱材 ハイキング≓フィールドワーク
進級試験が終わって、三ヶ月が経って、僕のこたつ作りは全く進んでいなかった。
いや、色々と忙しかったんだ。
専科生になるための準備とか、放置しすぎた幼馴染みの機嫌取りとか……色々。
まぁ、言い訳なんだけどね。
本当は、この冬が終わるまでにこたつをなんとか完成させて、教授達にこたつの素晴らしさを味わってもらうって計画を立ててたんだ。
それが破綻したのは、断熱材って厄介な素材のせいだった。
テーブルと熱源の間に挟まって、テーブルが燃えるのを防ぐのに必要な断熱材だけど、その用途によって、本当に様々な種類がある。
住宅建築用、暖房器具用、調理器具用とか、本当に色々なんだけど、直接熱源に触れるタイプの断熱材を考えると、その種類は結構限られてくる。
なにせ、燃えない素材じゃなきゃいけないから。
その用途で一番多いのは、鉱石を加工したものになる。
鉱石なら燃えないから納得だ。
ただ、加工って言っても、ルルシアのように、溶かして固めて終わり。みたいな、単純な加工じゃなくて、何段階も経て、おおよそそれが元々鉱石だったことが、わからないくらいの完成品として出てくる本格的な加工。
それをするためには、工場整備が必要なものばっかりで、とても僕個人で、できるようなものではなかったんだ。
直接触れる断熱材が作れないなら、間接的にテーブルを熱から守るタイプならどうだろう?
そうなって来ると、こたつの設計自体を見直さないといけない。
そもそも、僕が最初に描いた設計図がこたつとして正解なのかもわからなかった。
この世界に、正解を教えてくれる、こたつはない。
もしかしたら、熱源とテーブルの間は、単純に断熱材を挟んでいるわけじゃなくて、僕の想像もできない方法を取っていたのかもしれない。
こんな事なら、転生前に一度はこたつを分解しておくべきだった。
そんな所で、僕のこたつ作りは止まっていた。
すっかり冬は終わっていて、地球なら、家によってはこたつを仕舞う時期。
僕の家は夏の直前まで出してたけどね。
そんな折り、クノンから連絡が入った。
「今度の休み、ハイキングに行かない?」
ハイキング?
フィールドワークの間違いだと思ったんだ。
僕の幼馴染みに限って、ただ風景や自然を楽しむ為に、休みを費やして、僕と出かけようなんて考えない。
「今度は、どんな魔物?」
「違うって、今回のメインは魔物じゃなくて、ハイキング」
「それは、すっごく珍しいね、クノンが魔物関係以外で出かけようって言うなんて」
「他にもショッピングとか行ったでしょ!」
そのショッピングでいつも買うのは、フィールドワーク用の機材だったり装備だったり、魔物に関する書籍だったり、なんだけどね。
「いいよ、次の休みは空いてるから」
ここで、僕は大きな見落としをしていたんだ。
認識の齟齬とでも言うか、例えば、フィールドワーク用の買い物をショッピングと無意識に言い換えるバイアスみたいなもの。
確かにクノンはハイキングをメインって言った。
メインって事はサブがあるって事で、ソレは言わずもがなってわけ。
勘違いして欲しくないのが、僕は魔物を毛嫌いしているわけじゃないんだ。
ただ、特殊生態生物と呼ばれる彼らは、その名の通り、一般に動物や植物とされる生き物に対して、非常に特殊な生態と、その生態に伴った特徴的な身体機能を持ってる事が多い。
つまり、危険が危ない状況になりやすいって事。
転生前、学生で死んでしまった僕は、できれば今回の人生長生きしたいんだ。
人生は二度きり(※1)だからね。
※訳者注釈
※1
「人生は二度きり」という言葉は、カルナーシスから転生夢の際に全ての人間が与えられる言葉とされている。
神から直接その言葉を受けるという経験は、この世界の人間の死生観にも一定の影響を与えるところとなっている。
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