木材 タイムアウト!

 なんだか、すっごく久し振りに思えるシュレ=エコルはノテロスよりも季節の巡りが早くて、もう冬が始まってた。

 秋を大陸の狭間に忘れたみたいな変な感覚だ。

「ここの所見なかったけど、何やらかしたんだ」

 久し振りに会ったデノはそんな事を言う。

 まるで、僕がいつも何かやらかしてる、みたいな言い方だ。

「ちょっとノテロスに行ってたんだ」

「この時期に観光か? 余裕だな」

「違うって、課題の為だよ」

「課題って、この前言ってた暖房器具のヤツか」

「そう、テーブル作るのに端材が必要でさ、知り合いの伝手でそこの芸術家の所にお世話になってたんだ」

「芸術家って、誰だ?」

「言ってもわからないと思うよ?」

「俺、結構詳しいんだぜ、趣味で絵描いたりしてるからな」

「それは初耳。それじゃわかるかな、ロイエとスニって人たちなんだけど」

「ロイエとスニ……ちょっと待て、それって彫刻家のスニロイエじゃないよな? カルナーシス像の」

「たぶんそれかな、本当に詳しいんだね」

「詳しくなくても知ってるだろ」

 そう言ってデノが見せてくれた記事は、色々な修飾語を使って、スニロイエを褒めてた。

 それを読んで、僕はようやくスニとロイエさんが有名な芸術家って知ったんだ。

 でも、そんな記事を読まなくても、二人が凄い事は、作品を見た時点でわかってたんだけどね。

  

 ノテロスから戻って、四日遅れで、僕の作ったテーブルの部品が届いた。

 組み立ては、かなり簡単に終わった。

 作る時点でスニと相談しながら、組み立てやすい構造にしてたんだ。

 できあがったテーブルの天板と幕板の間に、ヤヴルロブロから作った布を挟んでみる。

 自分で言うのもなんだけど、これだけで立派なこたつに見えた。

 白が基調になってて、清潔感があるし、それでいて随所に手作りの温かさが感じられる。

 自画自賛でべた褒め。

 それくらい、僕はこのテーブルと布の組み合わせが気に入ったんだ。

 ここまで来れば、もう完成は目前に思えた。

 後は、ルルシアをこの中に組み込む為の仕組みを作れば完成だ!

 ただ、残念だけど、ここでタイムアウトだった。

 木材の入手に手間取りすぎたんだ。

 ソラからスニとロイエさんを紹介された時点で、課題提出まで二ヶ月を切ってた。

 僕がテーブルを組み立て終わったのは、課題提出の二十日前で、ここから調べて、素材の入手と加工までするような時間はどう考えてもなかった。

 なにより、レポートすら間に合うか微妙だったんだ。

「長く見積もって、二、三ヶ月」

 誰がそんな事言ったのか、知らないけど、その人に僕から言える言葉があるとするなら、見積もりは厳しめに取った方がいいって事。

 素材も、入手方法も決めてないのに、どう考えたら、二、三ヶ月でできるんだろう?

 半年掛けても無理なのに。

 レポートを書きながら、そんな恨み言が虚空に消えたけど、鏡に向かって言った方が効果的だと思う。

 結局、僕は不完全なこたつ(と言うより、テーブルに布をかけたもの)を持って、進級試験の発表会に挑まなくちゃいけなくなったんだ。 

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