木材 天板を待つ、生活をする

 タプケルスという、端材と呼ぶには豪華すぎる素材を手に入れて、僕の端材合板作りは最終段階に入った。

 端材と言っても、スニが斬ったままの状態だと、大きすぎたし、形もばらけてて、あまりいい感じにはならなそうだから、これを細かくしないといけない。

 細断機とか、もちろんないから、人力だ。

 タプケルスはとても堅い。

 スニから長剣を借りて、試しに斬ろうとしてみた。どうやってスニがあんなにスパスパ斬ってたのかがわからないくらい、タプケルスは刃を通さなかった。

 あれは、転生前から磨いていた、卓越した技術が成せる技だったらしい。

 そういう訳で、僕は小屋の端っこで、地道に、端材を細かくする作業に入った。

 僕の当初の計画は、数ミリ角の大きさにして、合板にしようってものだった。ただ、裁断機がない状態で、木をそんな大きさに手作業でするのは、とてつもなく骨が折れた。

 大きな端材をノコギリで小さくして、それを彫刻刀で刻んでいく。

 一つの端材を細かくするだけで、僕の一日分の集中力を使い果たしてしまったように感じた。

「……おがくずにすれば?」

 スニの提案がなかったら、僕は今でも端材を彫刻刀で刻む作業をしてたかもしれない(言い過ぎだけど)。

 端材合板にも色々と種類があって、僕が最初に作ろうとしたのは、比較的大きな端材で作るものだった。

 こっちの方が、片が大きい分楽なんじゃないかと思ってたんだ。

 それに対してスニが提案したのは、端材を殆ど粉のようにしたものを使う合板。

 どう考えても、端材から木片を削り出すより、ヤスリで一気に削った方が楽だ。

 僕がそんな、試行錯誤をしている間、小屋の真ん中ではロイエさんが、「夢を駆けるカルナーシス」に命を吹き込んでいた。

 ロイエさんの、普段の優しい雰囲気からは想像できないくらいの、刺すような緊張感の隣で、僕とスニは木片をヤスリで粉にする作業をしてた。

 全ての端材を細かくするのに、二日。

 その間に、夢を駆けるカルナーシス、はかなり完成に近付いていた。

 僕も負けてられない。接着剤と混ぜて、端材合板を完成させよう!

 接着剤として使った白接ぎの木の樹液はかなり粘性の高いものだったから、これを少量の水と混ぜて、使いやすくする。

 それを細かくした端材と混ぜて、なんとも言えない、ドロドロの液ができあがった。

 これを木枠に流し入れて、上から板をかぶせて、さらに重石をこれでもかってくらい乗せて、待つ。

 待つ……待つ……ひたすら待つ。

 待っている間に、僕がなにをしてたかと言うと、畑を耕したり、近所の農家の手伝いをしたり、小屋の修繕を手伝ったり、少しだけレポートを書いたりしてた。

 つまり、すっごく、のどかな生活をしてた。

 これまでの生涯で僕は、ある程度の都市部でしか生活して来なかったから、ここでの半自給自足の生活は、色々と不便がありつつも新鮮だった。

 娯楽に費やす時間よりも、生活に費やす時間の方が圧倒的に長くて、店も遠出をしないとないから、全ての物を大切に使う必要がある。壊れた物は、修理して使うし、足りない物は他のなにかで補わないといけない。

 ただ生活をする、って事に、いつもの何倍もの気を遣うけど、それはとても生きてるって感じがしたんだ。

 一つだけ、注釈を入れるとするなら、僕が訪れた季節が最終盤の頃とは言え、ギリギリ夏期で、かなり生活しやすい気候だったって事かもしれない。

 ノテロスの冬は厳しくて長い。その頃になると、生活のほぼ全てが生きるために費やされ、雪のせいで交通手段はほぼ絶たれて、貯蓄した分で食いつなぐ生活となる。

 らしい。全部スニとロイエさんから聞いた話。

「冬までいる?」

 スニからの素敵な提案は、残念ながらお断りした。

 

 待って、待って、十日。

 やっと、合板は固まった。

合板から蓋に使ってた板を削り取って、表面を磨く。

 そうして、できあがった合板は白くて表面がツヤツヤしたとても綺麗なものだった。

 接着剤として使った白接ぎの木の樹液が固まると白くなる性質があるのと、端材として使ったタプケルスも白い木材だったことで、白と白のグラデーションが綺麗な、我ながらかなりできのいい端材合板になっていた。

 天板は完成だ!

 後は、テーブルの脚とか、下の部分なんだけど、これは余ってる木材を貰った。

 少し、いやかなりズルな気もするけど、天板を作るのでも十日以上かかったわけで、他の部分まで端材合板で作ろうとしたら、本当に冬までここにいることになっちゃう。

「……冬までいれば」

 そんな事を言いながら、スニも手伝ってくれて、削り出した立派な四本の脚と、それらを繋ぐ幕板(天板を乗せる所)も手に入れる事ができた。

 あとは、これを組み立てればテーブルになる。


 こうして、僕は無事にテーブルを入手することができたんだ。

 およそ半月の間、居座らせてくれて、テーブル作りまで手伝ってもらった、スニとロイエさんには感謝の言葉もない。

 

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