木材 芸術を知らない僕が芸術の街で芸術家に会う
合板。
薄い木の板を何枚か重ねて、一枚の板にしたもの。
元々は、低品質の木材を利用するために生まれた技術で、一定以上の文明に達した世界ならだいたい持ってる。
木目を違えて重ねることで、板自体の耐久度も上がるっておまけつき。
多くの世界、文明で、木材が建材や日用品に用いられている事実から考えると、必須の技術とすら言えるのかもしれない。
合板なら、無理に大きな木を切る必要はない。
ただ、それでも、薄い板を作る為の木が必要って問題は残ってた。
「合板でも、木は必要だよ」
「あー、それじゃなくてさ、なんて言ったっけ、あれも合板って言わなかったっけな」
「どれ?」
「端材とかくっつけて作るヤツ」
ソラとの会話の中で、結局答えは出なくって、後日調べて、僕はその板に辿り着いた。
端材合板。
……びっくりするくらい、そのままの名前。
名前を知ってる人が、僕たちの会話を聞いてたら「言ってるじゃん」って突っ込みたくなる程度にはそのままの名前だった。
その製法もその名の通りで、そのままだと板にすらならないような、加工の途中で出た端材とかを集めて、板にする。
端材なら、製材所とかに行けばいっぱいありそう。
これなら、僕が木を切る必要はなさそうだ。
「あー、名前はわかんねぇけど、それ作るんなら、ちょうどいいの知ってるから紹介するぜ」
帰り際、ソラが言ってた事を真に受けて、僕はその知り合いを紹介してもうことにしたんだ。
「あー、えっと、ロイエさん……ですか? 魔物狩りのソラの紹介で来た、ファムです。よろしくお願いします」
飛行機から降りて、人でごった返すロビーで、僕は待ち合わせの相手を見付けた。
「あらぁ、よく来たわねぇ。よろしくねぇ」
彼女は、とても優しそうな雰囲気の妙齢の女性だった。
ちなみに、待ち合わせの目印は……
「長い白色の髪……だといっぱいいるわよねぇ、えーっと、青のロングスカートも……いる、かしら。ちょっと待ってね、あっ、そうだわ! 木彫りのカルナーシス様(※1)を持ってるのが私よ」
……そういうわけだから、とても簡単に見付けられた。
「それって」
言った通り、彼女は一抱えもある見事な、カルナーシス様の木像を持っていたんだ。ロイエさんの身長が高い事もあって、かなり目立っていた。
「納品の途中でねぇ、少し寄るけど大丈夫かしら?」
「はい。むしろ、お世話になるのに、迎えにまで来て貰って、すみません」
「あら、いいのよぉ、お客さんなんて久し振りだからぁ」
シュレ=エコルから飛行機を二回乗り継いで、計十八時間(ソラの行動範囲を甘く見てた事は認める)。
僕は、ついに大陸を跨いで、芸術の街ノテロスにやって来たんだ。
観光地としてもとても有名な町並みは、すっごく綺麗だった。残念ながら僕の目的は観光じゃなかったから、ゆっくり見ることはできなかったけどね。
空港から電車で二時間。
途中、ロイエさんの納品に寄った事もあるけど、思っていた以上に彼女たちの家は遠かった。
ノテロス郊外。
この辺りは観光地じゃなくて、のどかな風景が広がっている。
「遠くてごめんねぇ」
ロイエさんたちの家は、そんなのどかな風景の中にぽつんとあった。
「……遅い」
「あら、ただいまスニちゃん。お出迎えなんて珍しい」
玄関先でロイエさん(とついでに、僕)を待っていたのは、不機嫌そうな女性だった。
見た感じ、ロイエさんと同い年くらい。
ただ、二人が並ぶとロイエさんが長身って事と、スニの背が低い事もあって、姉妹とか、なんなら親子のようにすら見えた。
「ファムです。お世話になります」
彼女は鋭い金色の三白眼で僕を睨んで、一言も話さない。
「…………」
「……あの?」
「スニよ……あとは、ロイエに」
第一印象は、なんだか気難しそうな人って感じだった。
「気に入られてよかったわねぇ、ファム君」
「どこがですか?」
「あら、だって、帰れて言われなかったでしょう?」
気に入られなかったら強制送還だったらしい。
彼女たちが、端材をくれて、端材合板を作るのを手伝ってくれる、木彫り職人のロイエとスニだった。
この二人の名前でピンと来た人もいるかもしれない。
彼女たちの職人としての名前はそうじゃなくて、二人で一人、スニロイエと言う名前で活動してる。界隈では若くして一流の芸術家として名高い彼女たちだけど、芸術に疎い僕が彼女たちの知名度を知るのは、少し経ってから。
だって、ソラは紹介の時に
「ちょっと遠くに、仕事で護衛した木彫り職人がいるから、そいつらなら、いい端材もってるだろ」
程度の情報しか教えてくれなかったんだ。
※訳者注釈
※1
カルナーシスはこの世界で最も広く信仰されている宗教、カルナ教の唯一神。
この世界の住人の全てが転生者であることは、既に作中に明記されているが、彼らが転生前の記憶を思い出す転生夢の最後に現れるのが、このカルナーシスとされている。
その為、この世界の住人はカルナ教の信徒となる、ならない、に関係なく大半が神の存在を信じている。
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