木材 幼馴染みの助け船(姉)

 布の入手が(かなり疲れたとは言え)僕の裁縫まで合わせて十日で終わったことで、不可能に思えたの完成に僅かな希望が見えてきた。

 なにより、クノンの行動力に学ぶところがあるように思えたんだ。

 布に着手する前に僕が調べてた木材の入手場所は日帰り、ないし一泊で行ける範囲だった。

 慎重派の僕としては、そこらへんが活動範囲の限界だって勝手に思ってたんだ。

 もう少し、足を伸ばす覚悟をしないといけないのかもしれない。

 僕は見境なく電話をかけまくった。

「突然すみません。僕、シュレ=エコルデザイン工学科の学生をしてるファムと言うものなんですが……」

  ……結果は、惨敗。

 僕が切るって条件でオッケーをくれる所は一件もなかった。

 見学ならオッケーって所は結構あったんだけどね。

 理由としては、危ないってこと(それを伝える言葉は色々だったけど)。

 中には、木を切るっていうことが、どういう事なのかを順序立てて説明してくれる所もあった。

 そもそも林業とは、どういう仕事なのかって話。

 木を植えて切る。

 その言葉の間に挟まる無数の仕事と計算、時間に情熱。

 立派な木に育てる為には植える場所の選定から始まって、間引きや枝落とし、森そのものの管理がある。

 そうして、育つのは五十年から百年かかる。

 つまり、自分が植えた木を切ることは先ず無い。

 自分が切る木は、先代とか先々代が植えたもので、彼らが情熱をかけて育てた木を切らしてもらう。そして、自分たちは後の代に木を残す。

 そういう連綿とした繋がりが林業で、木を切るって行為は僕が思ってるよりもかなり大切な事だった。

 だから、勝手も知らない学生が、日帰りかそこらでちょっと行って、木を切るって考えがそもそも間違いなんだ。

 木が手に入らないなら、どうすればいいんだろう?


「よぉ、ファム。久し振りだな」

 思いっきり行き詰まった僕の元にやって来たのは、クノンの姉、ソラだった。

 会うのは久し振りだったけど、相変わらず日に焼けた肌と、鍛え上げられた身体、あと、肩に担いだ大型ライフルがすっごく目を引く人だ。

 僕たちより二コ上のソラの仕事は、魔物狩り。

 魔物狩りって言っても、この前の僕が相手にしたヤヴルロブロみたいな危険度低じゃなくて、危険度高以上を相手にする一級プロライセンスを持ってる。

 彼女はいつも世界中を飛び回っていて、最近だと滅多に会えない存在だ。

 そんなソラが、シュレ=エコルに珍しく帰ってきたのは、僕たちが見付けたルルシア湖が原因だった。

 調査が入ることになったファサガラ山で、調査チームの安全確保の為の護衛として雇われたんだ。

 この日は久し振りの休みで、クノンに会いに来たついでに僕の顔を見に来たって話。

「また、変な事やってるって?」

「ソラねぇの方が変な事やってるでしょ?」

「そいつは違いねぇ、この前、ヤバい魔物狩った話聴くか?」

 偶に会う度に、ソラは仕事であった事を話してくれる。街で生きてる僕にとっては、充分過ぎるほど刺激的な話なんだけど、ここでは割愛するね。

「ところで、木材が必要だって?」

「うん、テーブルを作りたいんだ」

「買えばいいじゃねーか」

「それじゃ、ダメなんだ」

「お前らの考える事はいまいちわかんねぇな」

 僕だって、なんでこんなことしてるかわからない。

 いや、こたつと進級の為だった。

「しかし、テーブルねぇ、一枚板切らせてって言ってもそりゃ無理だろ。アタシの所に魔物狩りたいって初心者が来たらぶん殴って説教だ」

「やっぱり、そういうものなのかな」

「そもそも、テーブルなら別に木材じゃなくていいだろ?」

「ダメだよ、こたつのテーブルって言ったら木材なんだ」

 僕としては、ここはどうしても譲れない部分だった。

 きっと伝わらない拘りなんだろうけど、こたつは絶対に木のテーブルじゃなきゃいけないんだ。

「んじゃその木材って、合板はダメなのか?」

 合板?

 木を切って手に入れるって選択しか考えてなかった僕には、完全に目から鱗だった。 

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