布 セルバのハトゥーマ

 ルワヌボワ(忘れそうだけど、この森の名前)三日目の朝、僕は筋肉痛で目が覚めた。

「自分で起きるなんて珍しい」

 僕の隣で、目覚めたばかりらしいクノンがあくびをしてた。

「おはよう、めっちゃ筋肉痛なんだけど」

「私も、足も腕もパンパン」

「だよね、だから今日は……」

「頑張って早く終わらせたいわね!」

 どうやら、クノンには休むって選択肢はなかったらしい。

 とは言え、昨日の時点で六割終わってて、残りは四割、少し気持ちが楽ではあったんだ。

 身体はクタクタだったけどね。


「……おわった」

 昼過ぎ、最後のヤヴルロブロを突いて、掬って、ボックスを閉じて、僕は深いため息を吐いた。

 二日目になって、疲労は当然残っていたけど、僕たちの作業はかなり効率化されたみたいだった。

 予想よりも少し早い終了のおかげで、僕の感情はかろうじて生きてた。

「さ、戻ってキャンプ片付けて、待ちに行くわよ!」

「元気だね」

「ここからが本番だから!」

 僕としては、間違いなく最初からクライマックスだったんだけど、どうやらクノン的には違ったらしい。

 いや、布を作るって目的なら、確かにここからが本番じゃないと困るんだけど。


 キャンプを片付けて森を出たのはすっかり夕方になった頃で、そこから車で一時間、久し振りに「人が住む」場所に到着した。

 到着したセルバはかなりラフな雰囲気の街だった。

 観光地ってわけでもないから、知らない人が多いかもしれないけど、道で沢山のグループがライブしてたり、それを露店で買った食べ物を見る人たちがいたり、楽しい街なんだ。

 住人も気さくで、僕たちが他の街からの来訪者だと知ると、お勧めの店とか案内してくれた。まぁ、観光を楽しむ前にやらないといけない事があったんだけどね。

 クノンに連れられて訪れたのは、レンタカー屋だった。

 正確には僕がレンタカー屋と初日に勘違いした研究施設だった。

 いや、ほら、あの日はその時点でかなり死んでたから。

「やぁ! 君がクノン君のボーイフレンドかい、よろしく! 僕はハトゥーマ。ハマって呼んでくれ」

 僕たちを出迎えたのは研究者って言うよりは、バンドでもしてそうな声の大きい、明るい男の人だった。

 ちなみに、彼がクノンの言ってた協力者でロブロ研究の第一人者。

 誰もそのことを言わないから、僕がそれを知ったのは次の日になってからだったけど。

 自己紹介もそこそこに、車に積んでた荷物を降ろして、下処理が始まった。

 先ず、大きなプールみたいなところに、頑張って集めたヤヴルロブロの体組織を入れていく。昨日の分と合わせてプールはいっぱいになった。

 以上。

 これで終わり?

「後は、乾燥させるから、明日の昼過ぎくらいにまた来てよ!」

 そんな感じで、思っていたより、かなりあっさりと、下処理は終了した。

 ホテルで久し振りに僕は、自分が文明社会の人間だったって思い出せたんだ。

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