熱源 ルルシアの衰退と余談

 固まったルルシアは、あのドームで見たようなつややかな表面とはいかなかったけど、こたつの天板に貼り付けても邪魔にならないくらいに薄く、平べったい一枚板になってた。

 少し残念な点があるとすれば、ルルシアを還元する時に使ったマギノザイドが混ざっちゃって、色が黒く淀んだこと。

 あの青く美しいルルシアは、今や青と灰色を混ぜたみたな、あんまり綺麗とは言えない色になっていた。

 それでも、ちゃんと温かい、最高級の熱源を僕は手に入れたんだ!


 さて、ここからは余談になる。

 こんなに綺麗で、温かくて、最高級と言われたルルシアがなんで使われなくなったのか?

 一つには、僕が今回身を以て体験したように、採掘に危険が伴うから。

 これがルルシアが当時高額な熱源だった理由にもなってる。

 五十年前、ファサガラの採掘場では平均して年間十名の死者が出てた。

 暑さや採掘中の事故、僕たちが経験したみたいに、ラムキスティオのような火山性の魔物による事故が主だったらしい。

 魔熱石ルルシアのもう一つの名前「命を吸う青」はそこから付けられたものだ。

 もう一つは、再結晶したルルシアでも、基本的には常に熱を発し続けるってこと。

 これは、ありがたい反面、非常に危険なことでもある。

 製品として売られたルルシアには特殊な加工が施されてて(これは後の章で詳しく解説するね)、使わない時は熱くならないようになってんたんだけど、それでも破損なんかで、その加工が失われると、自然発火のような事故を引き起こした。

 その上、この性質は廃棄する時にも厄介で、特殊な処理をしないと捨てられなかったんだ。

 こういった理由から、ルルシアは他の新しい熱源に追われるように廃れていった。

 ルルシアの衰退とそれを産業とする地域の衰退は同時に進んだ。

 そう、ファサケル村みたいに。

 ただ、暗い話ばっかりでもないんだ。


「ところでルルシアって、これお前の仕業じゃないよな?」

 実験をする前、デノが僕に見せてくれた記事がある。

 ファサガラ山で世界的にも殆ど見られない規模での、ルルシア湖(ルルシアが再結晶して固まって、湖みたいになってる場所)が見付かったってやつ。

 この時点で、ファサケル村の一件から一ヶ月くらいが経っていた。

 その間に、ソアラちゃんの写真がSNS(※1)でバズった。

 めちゃくちゃバズって、研究者の目にとまり、世界的にも類を見ない珍しい現象に特別調査チームが組まれることが決定したんだ。

 ちなみに、あのファサガラ山は特定保護地域に指定されるかもしれない(この本の執筆中に指定された)って話だった。

 そうなると、あの山での採掘は法律で禁止される。

 でも、その代わりに、観光地にはなれるかもしれない。

 ソアラちゃんの言ってた坑道ツアーが流行るとは思えないけど、ルルシア湖ツアーの方は流行るかもしれない。


 あと、心配になって一応問い合わせてみたけど、僕の採ったルルシアに関しては、保護地域の指定前だからセーフだってさ。

 

※訳者注釈

※1

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という名称とは当然異なるが、使用用途としては概ね同一なので、この名称を用いる。

 この世界では、街や村毎にな文明レベルの格差が存在し、住民は自身の望む生活環境に近い場所で生活を行う(例えば、高度に発展した世界からの転生者が、敢えて文明レベルの低い地域での生活を望む、など)。

 このため、SNSも世界全域を結ぶものではなく、より偏った、いくつかの街でのコミュニケーションツールと言った趣が強い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る