熱源 最高級の熱源とは?

 これさえちゃんとしてれば、見てくれはどうでも一応こたつにはなる。

 そんな強い信念の元、僕は最初に取りかかる素材に熱源を選んだ。

 逆を言えば、ここがしょぼいと、色々と格好付かない。

 暖まるのに十分以上かかるこたつとか嫌だし、使い物にならない。

 冬の朝の一分は死活問題だ。

 そういうわけで、最高級の熱源を使うことにした。

 でも、最高級って、随分と曖昧な言葉だと思わない?

 少なくとも、僕にはどんな熱源が「最高級」なのか直ぐに思い付かなかった。

 そんなわけで、実地調査に行くことにしたんだ。

 近くの家電店(※1)へ。

 でも、どう考えても時期が悪かった。

 だって、夏に暖房器具を沢山置いてる家電店なんてあるわけがない。

 街で一番大きな店ですら、五種類しか置いてなかった。

 きっと、店員もこんな真夏に、暖房器具の熱源について聞きに来る変な客なんか想定してなかったんだろう。

 変な客を対応する羽目になった不運な店員の名前はシグニス。

 変な客にもちゃんと対応してくれる、とっても真摯な笑顔の素敵な店員だった。

 困惑気味のシグニスに聞いた結果わかったのは、熱源には大きくわけて二つあるってことだ。

 一つは、直接「火」を発生させるもの。

 僕の家で使ってた、魔力式ストーブとかがこれに当てはまる。

 利点は暖かくなるのが早いこと。欠点は、少なくともこたつには使えそうもないこと。

 もう一つは、何らかの方法を通して「熱」を発生させるもの。

 例えば地球にもあった、ニクロムとかに電気を流して、その抵抗で熱を発生させるものや、特定の素材に魔力を与えることで、熱を発生させるもの。

 最近の主流はどうやらこっちらしい。

 こたつの事を考えると、後者になりそうだ。

「こういった形で、最高級のってどんなものになりますか?」

 僕の質問に、シグニスは五つある中の一番高い商品を迷わずに勧めた。

「こちらになります」

 それは洗練された見た目の、いかにも高そうなファンヒーターだった。どこが熱源なのかわからないくらい見事に隠されてて、それなのに直ぐに温風が出る。

 しかも、空気清浄機機能と冷風機能も搭載されてて、魔力消費もかなり抑えられてるもの。去年の最新スタイルだけど、時期がずれてるので、なんと三割引にポイント倍のお値打ち品。インテリアとしても、景観を損なわないデザインでお手入れも簡単。

 まぁ、受け売りなんだけど。

 熱心に商品を勧めてくれるシグニスに、僕は次の質問をした。

「えっと、これの熱源って手作りすることってできますかね?」 

 その時の、困惑した彼の顔は、完全に素のそれだった。

「すみません、わかりかねます」

 そりゃそうだ。

 ただ、そうは言いつつもシグニスは、この商品に使われている熱源がどれほど最新の技術を用いて作られたのかは解説してくれた。

 要約すると、手作りは無理って話。

 どうやら、魔力を与えて熱を発生させるもの(発熱魔式って言うらしい)の今最新で最高級と言われるものは、様々な素材を合成して作られる特殊合金らしかった。

 ちなみに、作り方は企業秘密。

 ただ、全く成果がなかったわけじゃない。

 工学部卒の、後から聞いた話だけど、前年の最優秀店員に選ばれた事もある、シグニスは「今はあまり使われていないけど、かつて最高級と言われていた熱源」の話をしてくれた。

「天然素材で、簡単な加工のみで使える」

 という、僕にとって願ってもない条件を付け加えて。

 その素材の名前は「魔熱石ルルシア」。

 そして、調べてみると、それは、僕が思っていた以上に打って付けの熱源だった。

 魔熱石ルルシアがよく使われていたのは、今から五十年ほど前の話。

 その頃、ルルシアが採掘されていた鉱山がなんとか日帰りできそうな距離にあるらしい。

 こんなに都合のいいことなんてある?

 早速、僕は次の連休に魔熱石ルルシア採掘旅行を計画したんだ。  

 

※訳者注釈

※1

 正確には家電は電気製品だけではなく、魔導製品、電魔製品など、広く日常生活で用いる言葉。便宜上、家電と表記。

 この世界が様々な世界からの転生者で形成されている為、電気と魔法、双方の技術開発が高いレベルで進んでいる。 

 

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