設計とルール
プロローグを読んだ人の多くが抱く疑問があると思う。
「結局、こたつってなんなんだよ」
いや、まぁ、そりゃそうだ。だって、説明してないし。
と言うわけで、ここで改めて、こたつがどういった暖房器具なのかを説明したいと思う。
簡単に言うと、こたつは、「テーブルの周囲を布で囲んで」「中にヒーターを入れた」モノ。
こう書くと、なんてことないものに聞こえるかもしれない。
でも、たぶんみんなが想像したものとは少し違う。
僕の住んでた地域は、床座の生活様式(つまり、直接床に座る)が主流だったんだ。
それに応じて、テーブルも床に座った状態で使えるように足の短いものだった。
このタイプのテーブルがこたつになる利点は、ずばり
寝っ転がって暖まれることだ!
……たぶん、こう言ってもあんまり伝わらないかもしれない。
こたつの本当の魅力は、実際に体験してみないと伝わりにくいんだ。
まぁだからこそ、作る意味がある。
そういうわけで、僕はこたつの設計をはじめた。
設計って言っても、転生前の僕の記憶に頼るしかない。
そもそも、こたつって、どういう製品だったんだろう?
一番ポピュラーな(僕が想定する)こたつは、テーブルの天板の下にヒーターが備え付けられているものだ。
テーブルは正方形の木製で、周囲を囲む布は少し厚手のものだった。
つまり、こたつを作るのに必要なものは
・熱源(ヒーター)
・テーブル(木製)
・布
なんだか、簡単に作れそうだ。
でも、ちょっと待って欲しい。
木製のテーブルの真下に熱源を設置するのって、危険じゃない?
こたつのヒーターは直接触れないように覆いがしてあったけど、知的好奇心から直接触って火傷した記憶がある(転生前の親には相当怒られた)。
それだけの熱源が木製のテーブルにむき出して触れていたら、たぶん燃える。
つまり、断熱材も必要ってことだ。
それにそんな熱源を足が触れる場所に晒して置くわけにはいかないから、地球のこたつがしていたように、囲いも必要かもしれない。
よし、必要なものがだいたいわかってきた。
それじゃ、街にでかけて、買い物をして、組み立てよう!
……って、それじゃ日曜大工となんにも変わらないじゃないか!
実を言うと、プロローグで語ったこたつを作ろうと思った理由は、願望の方で、実際の動機はもう少し不純だったりする。
あけすけに言うと、学校の進級課題として提出できないかなぁってこと。
こたつを作ろうとした当時、僕は学園都市シュレ=エコル(※1)のデザイン工学科の学士生だった。進級課題をパスして、専科生に進むには、なにか面白いアイデアが必要だったんだ。
課題提出まで半年を切った夏のある日、僕はこたつを作るってアイデアを思い付いた。
「冬の発表の時期に暖かいこたつをプレゼンできれば、その魅力も相まって、高評価間違いなし!」
最高のアイデアに思えた。
そこで早速、簡単なプレゼンテーション資料を作ってレイラ教授に相談してみたんだ。
「ふむ、君の世界にあった暖房器具を作るねぇ」
レイラ教授は年齢不詳の見目麗しい女性教授。デザイン工学科で(見た目だけなら)一番若い教授で、どう見ても二十代(ただ、年齢を聞くと半殺しにされる)。
まぁ、この時は僕の提案にすっごく渋い顔をしてたんだけど。
「聞く限り、一日もあれば作れそうだけど、日曜大工で進級試験がパスできるって本気で思ってる?」
「この話を聞いただけじゃ、そう思いますよね?」
ここで、レイラ教授を頷かせる為にはサプライズが必要だった。
それも、とびっきり、意外性のあるものじゃなきゃ。
「それじゃ、僕が、全ての原材料を自分で調達して、自分で加工して、自分で組み立てて、こたつを作るって言ったらどうですか?」
僕は思いっきり、決め顔でそう言った。
このアイデアが通らなきゃ、今年の進級は諦めないといけない、ってくらい切羽詰まってたから仕方ない。
レイラ教授は僕の真剣な顔を見て…………爆笑した。
「そいつはいいねぇ、いいよ、やってみな」
そういうわけで、僕のこたつ作りは日曜大工じゃダメなんだ。
ここで改めてルールを定めたいと思う。
ルール1
「こたつに必要な全ての材料を(できるかぎり)自分で入手し加工すること」
この前提でレイラ教授にオッケーを貰ったから、これは譲れないルールだ。
これを思い付いた時、僕は最高に冴えた人間なんじゃないかと思った。
まぁ、実際はどうだったのかは、直ぐにわかると思う。
ルール2
「地球にあったこたつよりも高性能なものにすること」
なにを高性能と捉えるかってのは問題なんだけど、地球にあったものとそっくりそのまま、同じ原料を使うことも可能だった。
でも、それって転生世界でわざわざ作るにしては物足りなくない?
わかりやすく言うと、地球になかった素材で作ること。
それって、とっても面白そうだ。
これが、僕がこたつを作る上で取り決めたルールだった。
たった二つだけ?
僕もそう思った。
必要な材料は
・熱源
・木材
・布
・断熱材
の四つに、パーツを繋げたり、覆いになったりする金属の合計五つ。
これなら、長く見積もっても二、三ヶ月(※2)もあればできそうだ。
※訳者注釈
※1
学園都市シュレ=エコルは街自体が一つの学舎となっている複合巨大高等教育研究機関。
※2
この世界での一年は十ヶ月、四百十日。
一月は四十一日となるので、ファムは地球規格で三、四ヶ月を想定した模様。
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