それぞれの恋物語

side美葉菜


「ファイトー!」


コート内で先輩たちの声を聞きながら

必死にボールを追いかける。


御星のバスケはレベルが高い。


中学のバスケ部では

エースと呼ばれていたけど、

そのような人がここにはたくさんいるし、


やっぱり最近体が重い。

ダイエットも運動もしてるのに…

やっぱり、

昨日ケーキ食べたのは失敗したかも…


でも6月には新人戦もあるし

今ラッキーなことに1年生ながら

千晶と一緒にスタメンの1人だし

頑張らなくちゃ!


千晶に更衣室を出ながら聞いてみる。


「私太ったかも…」


「何言ってんの」


「だって、最近体が…」


「あんたが大きくなってるところって

女なら大きくなった方が

いいところでしょ!」


「いらないかも…」


「何言ってんの。恨まれるよ。それより…」


千晶が指差したのは体育館まで

私たちと大地を迎えに来た浩ちゃん。


なぜか窓の外を切なそうに見ている。


「あそこから生徒会室見えるんだって。」


「何が?」


「もう!早乙女さん」


あ、そっか、美音ちゃんは生徒会のメンバーだった。


「絶対浩輝、

美音ちゃんのこと好きだよね〜」


「美音ちゃんも

浩ちゃんのこと好きだよ。」


「え、その情報、何でさらっと言うの?

重要なウォッチング物件なんだよ!

私にとって」


「人を家みたいに言わない!」


「みんな恋バナ大好きなんだよ!?

自分の恋だけに集中してるのは美葉菜だけ!色々仕入れなきゃ」


「例えばどんなのがあるの?」


「さやりんが山下と付き合ってるとかー。

大竹さんが桜沢くんにアピールしながら

他校の男と三股かけてるとか?


あとは大地の好きな人?」


「え?」


前の2つも気になったけど…


「この前も言っていたよね!誰?」


千晶と浩ちゃんも知ってるっぽいし、

私だけ知らないなんて不公平だ!


「いやごめん、無理。

さすがに大地もプライドがあるしー。」


「石井ー」


千晶が先生に呼ばれて行ってしまった。

その間に


「浩ちゃん」


肩にポンと手を置いた。


「わ、福ちゃんどうしたの?」

笑いながらごまかそうとしてくるけど…

甘い!

そんなのでは私はごまかされないぞ!


「美音ちゃんでしょ。」


「うん…」意外とあっさり認めた。


「やっぱ美音はオレみたいなEで

漫画アニメパソコン大好きオタクより

桜沢くんみたいなAの完璧男子の方が

好きだよね。」


「そんなことない。」


だって、

美音ちゃんも浩ちゃんのこと好きだし。


それは言えないけど。

(内緒にしてってお願いされたし…)


「福ちゃんはそう言ってくれるけどさ…

一般的にそうじゃん。」


結局浩ちゃんは放課後まで結構悩んでいた。


千晶や大地にも相談してみたけど、


大地の答えは


「まあそうじゃね?

人によって差異はあるけど」


千晶に至っては、


「それはない!」


と否定したまでは良かったものの…


「美音ちゃんも浩輝のこと…」


秘密をバラしそうになったから

慌てて口を塞いだ。


その日の放課後、

次の練習試合のスタメンが発表になった。


「最後は1年から福原」


なんと!新たなスタメンになったのです!


「よろしくお願いします!」


頭を下げるとみんな

「がんばれ」

と応援してくれた。 


次の週末、楽しみだなぁ。


ウキウキしながら外へ出ると 


雨降りそ。


向こうの空は真っ黒で

今にも雨の降りそうな天気。


早く帰ろう。


でも電車を降りると、


うわー。めっちゃ降ってる。

困ったな。傘持ってないし…

よし!走って帰ろう。


走り出そうとすると


「福原!」


桜沢君の声がして振り返った。





side凛斗


「さよなら」


すれ違う先生に頭を下げながら

昇降口を出ると

今にも雨が降りそうな天気


あ、やばい。


福原に傘を渡すの忘れてた。


サブバックに入っている、

母さんから預かった赤い折りたたみ傘を

手にとり下駄箱に戻るが、

すでに靴はなかった。


マジか


とりあえず電車に乗る。

もう電車に乗って帰ってるかもしれないし…と思ったが、

電車を降りると出入り口に福原がいた。


外はザーザーと雨が降っている。


声をかけようとした途端

「よし!」

という掛け声とともに身構えた。


まさか走る気か?


冗談でもよしてくれ。


こんな大雨の中、

傘もささずに行くと風邪をひくぞ。


福原、次の土日試合だろ。


「福原!」


振り返った福原は

きょとんとした顔をしている。


既に飛び出しかけていたらしく

肩や髪が少し濡れている。


「少し汗臭いかもしれないけど、

風邪引くよりはマシだろ」

部活に使ったタオルを頭にかけてあげた。


「ありがとう」


あっという間に赤くなった

福原を見ないようにして傘を広げ

福原を引き寄せる。


福原の傘を持っていることを思い出したのは少し歩いてからだった。


こういうのって相合い傘になるんだっけ。

小学校の時流行ったいたずらを思い出す。


急に自分の心音が

大きくなってきたことが分かった。


雨のせいで薄暗い街


こんなところを誰かに見られて

からかわれたくない。


2人の肩がずれないように並んで歩きながら、


使わなかった傘を母さんや弟に気づかれず

どうやって戻せばいいか考えていた。

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