それぞれの想い②
side凛斗
「じゃあ、みっちゃんよろしくねー」
今日は会議とかで部活がないので
俺と福原も早く帰ってきていた。
母が進斗のダンスのレッスンについていくのに玄関を出たところで福原に会ったらしい。
俺は福原を見ると、
さっきの満面の笑顔を思わず“可愛いかも“
と思ってしまったことを
思い出してしまうから、
LINEで“先に帰る“とメッセージだけ入れて
帰ってきていた。
帰り際にどういう意味か美音に
「美葉菜ちゃんだけのせいじゃないから
一方的に責めないで」と言われたけど
意味不明なのでとりあえず放っておこうと
思って机に向かっていた。
しばらくすると綺麗な歌が聞こえてきた。
廊下に出ると福原の部屋からだった。
テレビで聞いたことのある
人気アイドルのヒットソング。
綺麗で伸びやかな美しい歌声を
思わず聴いていると、違う曲に変わった。
さっきとは変わって強く
すごくメッセージ性がある激しい歌声が
曲にマッチしている。
ドアに思わず近づいて耳を当て、
聞いているとドアが開いて、
福原が出てきた。
「桜沢くんどうしたの?」
顔を一気に赤く染める福原は
俺より20㎝ほど背が低いので、
自然と俺を見上げる。
そして自然と上目遣いになる。
「別に、歌上手いんだな。」
「いつもカラオケで負けると
全額負担になっちゃうから練習した。」
「へー。すごいな…」
俺は何をやっているのだろう。
部屋に戻ろうとすると
「待って」
と服をギュッと掴まれた。
「すいませんでした。」
いきなり頭を下げられる。
「何が」
何のことか分からず戸惑っていると、
「あの…クラスメイト達に住んでることが
バレちゃった。」
美音が言っていたのはこれだったのか。
「別に…美音に福原だけのせいじゃないって言われたし…」
つーかその上目遣いやめてほしい。
すごく第三者から見たら告白してる雰囲気になってるから。
俺が怖い顔をしていたのか、
「以上です。ごめんね。」
福原は怯えるように部屋に戻ってしまった。
「あーみっちゃんかわいそう。」
振り返るとドアの隙間から蓮斗が見ていた。
「何してんの」
疑問をぶつけるけど、
蓮斗は「いいの、いいの」
と全く気にせずに
「ね、みっちゃんってモテてんの?」
って聞いてきた。
「なんでそんなこと聞くんだ」
「だって性格明るくて元気だし、
あのルックス。
ね、みっちゃんと兄貴と同じ学年だろ。
めちゃモテてるでしょ。」
「いや知らね。」E組だし…
「でもみっちゃんは
兄貴のこと好きなんだもんな。」
何で蓮斗が知っているんだ?
びっくりした。
「お前どうして…?」
「これ」蓮斗が取り出したのは
ピンク色のかわいいメモ。
「ここに好きです。って書いてあった。」
嘘だろ?そもそも何で持ってるんだよ。
俺は受け取っていないのに…
「兄貴の部屋の前に落ちてた。
手紙は途中からだから、
2枚ぐらい書いてあったのを兄貴に
渡そうとしたけど、
諦めて帰った時に
落ちたパターンだと思う。」
マジか。福原って本当に馬鹿なのか。
「みっちゃんって意外と純情なんだな。
今時ラブレターとか」
純情って初対面の奴に
いきなりラブレター渡して振ったら怒って
消しゴム投げるやつのことを言うのか?
「ますます俺のタイプ」
「蓮斗、お前福原のことが好きなのか?」
「うん。みっちゃんのこと俺、好きだわ。兄さん、みっちゃんにアタックしていい?」
「勝手にしろ。」
そもそも俺は福原を
恋愛対象として見ていない。
苦手なタイプだ。
「でも兄貴がライバルだしなー。
強敵だよなー。」
蓮斗を無視して部屋を出ると、
「みっちゃん!ケーキあるから食べよー」
いつのまにか帰ってきたらしい母の声が聞こえた。
下でみんなが
わちゃわちゃしている声が聞こえてくる。
「凛斗〜」
母に呼ばれて降りてくると、
既にケーキの箱は開けられていた。
「じゃんけんぽん!」
最初に勝った福原がニコニコしながら
チョコケーキを取る。
そしてみんな決まって、
ケーキを食べ始めると、
「みっちゃん!一口ちょうだいー」
おねだりをする進斗。
そういえば進斗は
チョコケーキが大好物だっけ。
「いいよ!
一口進斗くんのケーキと交換ね。」
福原も恥ずかしがることなく
「あーん」進斗の口に入れた。
「美味しい!はーいみっちゃんもあーん。」
めちゃめちゃ甘えて末っ子の特権を発揮している。
「うん、美味しいありがとう進斗くん。」
「みっちゃん、俺にも一口ちょうだい。」
蓮斗も福原に頼んでいるが、
顔を俺の方を向いてドヤ顔をしているので
福原に対してのアプローチだろう。
福原は気づかずに
ケーキを蓮斗の口に持ってっている。
無性にイライラして
乱暴にケーキを口に放り込んでいると、
「桜沢くんもはい。」
コイツバカなのか?
呆れて目を見つめると
「どうしたの?美味しいよ。
桜沢くんのミルフィーユも一口くれない?」
“一口くれない?“の部分を
キラキラくりくりした目で話す。
どうやら本当に一口ほしいらしい。
バカなのか花より団子なのか…
「あ!」
ようやく気づいたらしく
頬をピンクにしながらごめんねと謝られた。
「別に。」
そう言って皿を片付けた。
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