第35話

「……つき、おきて、湊月ぃぃぃ」


聞こえるのは、悪口でも心の悲鳴でもない。茜の声。茜も、私なんて見捨ててしまうのだろうか? そうだとしたらこれ以上仲良くならない方がいいかもしれない。自分がこれほどまでに人を信じられなくなっていたことに驚きそしてなによりも絶望した。


恐る恐る瞼を持ち上げる。直後私の目の上に水滴が落ちまたしても視界は閉ざされた。水滴を拭い、再び目を開けるとそこには、ぐしゃぐしゃな茜の顔があった。



「あ、あかね? どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないよ! 湊月が倒れたって聞いて、運ばれて、私は……!」



茜の声は震えていて、一言喋るのもすごく体力を使って話している。そんな茜に申し訳なく思うのと同時に本当に心配してくれてたんだと喜びさえ感じてしまった。



「あ、おきたもく?」


この声は、クルム? まさか私のために来てくれたの?


「茜、私ってそんなに長く倒れてたの? 」


「ううん、時間はそうでもないよ。でも朔も先生もあと、小雪も皆心配してて……」



忙しくて帰っちゃったけどね、と茜はつけ加えた。あぁ、やっと居場所が出来たんだ。茜やみんなの隣なら私も存在していいんだ。



「そういえば、はくうさまもきてたもくね」


「え? 」


「すっごいないてたもく、ごめんなさいってなんどもあやまってたもく」


「そうなんだ……」



どうして私にあんな過去を見せたんだろう。今も胸がズキズキと痛む。茜は思い出させちゃだめでしょとクルムを叱っていた。



「茜、大丈夫だよ。」



少し強がりも含んではいたが紛れもない本心だった。クルムの言ってることは、本当だろうし白雨様は私を苦しめたかったわけではないのかなと希望をもてたから。



「湊月が、そう言うなら……」



渋々という感じで茜は引き下がった。



「湊月は、きっと抱え込む癖があるから私に話していいんだよ。話したくないことは無理には聞かないけど」


「ありがとう。ゆっくりになるけと話してもいいかな? 」


「もちろん! 湊月のペースでいいよ」



まず、何から話そうか。改めて説明するとなると難しい。頭の中で何度も何度も言葉を選びながら話しはじめる。



「白雨様は、私の思い出を強引に思い出させて……」



強引って表現であってるのかな? そんなことを何度も考えながら中学までの思い出を話す。茜は、否定も肯定もせずただ私の話を聞いてくれた。


さて、ここからが本当に忘れようとして白雨様が思い出させる前まで忘れていたこと。私は血が滲みそうになるほど強く手のひらを握りしめた。




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