第34話
「え?」
まさか、望みを聞いてくるとは思わず素っ頓狂な声をあげる。白雨様は、試すようにこちらをじっと見つめていた。強いて言うなら人見知りの克服だけれどそれは神様に願うことでは無いだろう。
「もしかして、お姉さん望み、ないの? 」
その声は心なしか少し喜んでいるように感じた。
「うん、神様に願える程の望みはないよ」
「やっぱり、人間は謙虚なんだね」
白雨様は、とても辛そうな顔をしてそう言うと何かを思い浮かべるようにぼーっとしている。その顔は五歳とは思えないほど大人びていた。ん? やっぱりということは私達以外に人間に会ったことがあるのだろうか。
「白雨様は、私達以外の人間に会ったことがあるんですか? 」
「まあね、それより君は過去に独りになったことある? 」
話の向きが変わりすぎて、ポカンとした私を白雨様はしっかりとした目で見据えている。なんだか、すごく嫌なことを思い出しそうで慌てて首を振った。これ以上何も考えたくない。
「僕の目からは逃れられないよ」
白雨様の、青い透き通った目がどんどん私を吸い込んでいく。それは、雨の神様には相応しくないなんて失礼なことを思ってしまうほど美しかった。
『湊月って変わってるよね』
『わかる、うちらとは違うっていうかさ』
『だって本ばっかり読んでて、流行りとかなんもしらないもんね』
小学生の頃だ。当時仲がいいと思っていた三人の友達の声が脳内でいつまでも反芻している。小さくて多感なこの時違うの一言に酷く傷つけられた覚えがある。
本を取りに教室へ戻ろうとした時にそれを聞いてしまった私と友達たちの間には、ほんの一瞬で分厚い壁ができた。その空気の感触さえもが戻ってきて、目をぎゅっと閉じる。
『もう湊月と一緒にいるの飽きた』
『えっ』
『だからもう話しかけて来ないで』
これは? いつ? 話しているのは誰と誰? 必死に思いださないようにするも全くの無駄だった。中学の頃の友達の声が頭にこびりつく。それからは、その子に限らず皆から避けられていた気がした。
なぜ、あんなことを言ったの? その日の前まで普通に話していたはずなのに。どんどんと波のように押し寄せてくる過去に目眩を覚えて倒れそうになる。
そして、一番忘れていたいや、忘れていようとしていたことを思い出し、とうとう意識を放り出してしまった。
――なんで私だけがこんな目に逢うの? ねぇ、誰か助けてよ。もうこの世なんか行きたくない。神様早く私を殺してください――
最後に聞いたのは、他の誰でもない自分の心の叫びだった。
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