第33話
水を打ったような部屋の静寂を壊したのは、先生の電話の音だった。先生は、かけてきた主の名前を確認すると急いで電話に出る。
「あー、あの件か……。ああ、動向を今以上にしっかり見張ってくれ」
先生は、ぶつぶつと話ながら私達に手を振り部屋から出ていった。身体の力と緊張が一気に解け、その場にぺたりと座りこむ。白雨様は、今頃なにをしているのだろうか? 一人で寂しく泣いていたら?
「湊月ぃ、私もっかい寝ていい?」
「えー、さっき寝たのにまた寝るの?」
「
いや、それはない。と強い意思をこめて首を振る。起きてから今までのことを考えてもそんな時間はなかった、はず。ちらりと視線を流すと茜はすーすーと規則正しい寝息を立てて眠っていた。何度このお気楽さに振り回されてきたことか。
「私も寝てみようかな」
そう一人言を零す。
体感で約二時間、全く眠くならず頭も目も冴え渡っている。暇だなー、のんびり考えていると、恐ろしい事実を思い出した。
地上は今も雨が降り続いているのだ。茜のお気楽さに影響されて、大切なことを忘れていた。
急かされるように部屋を出て、白雨様の部屋へと向かう。途中すれ違う人から声が聞こえてくる。
「全く手に負えない、私らの方がよほど最高神に相応しい」
「あんな、やんちゃで泣き虫が子どもで雨の最高神様も泣いてるわ」
「だから、地上は豪雨なんじゃない? まぁ、どうでもいいけど」
聞いていて吐き気を催すような醜い内容。私の想像していた神様よりも遠くかけはなれていて泣きそうになる。それでも、私が泣いてる場合ではない。以前の私と同じで孤独な彼を必ず救い出す。
白雨様の部屋の前に立ち深く深呼吸をする。
コンコン
ノックの音には私の心の全てを打ちつける気持ちで叩いた。実は、地図と一緒に白雨様の合鍵も預かっているので無理に開けることも出来なくはないが、正解ではない気がする。
「……誰だ」
子供なのに威厳のある声、だけどその芯には寂しさの拭いきれないか弱い声。この子には、この世界がどう写っているのだろう。
「答えない人はじめてだ、入っていいよ」
思いをめぐらせていると、白雨様の問いをすっかり無視していた。
重々しい扉を開けると、そこには豪華なお部屋が広がっていた。しかし、そこに日光のような、柔らかい木のような温かみはない。ただ、いいソファといいテーブル、いいベッド、他にも良質なものだけが、息を殺して棲んでいる。
「おねえさんは、僕になにを望むの? 」
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