第27話
この前、嗅いだものとそっくりの甘美な匂いが鼻を刺激する。決して、味が濃すぎるわけでもないのにこんなに匂いがするのは、神様の特殊技術とかだろうか。疲れている体には、甘い匂いが染み渡る。
「もう少しで寝れる……」
茜もだいぶ疲れているようだ。地上でどれくらい経ったのかは分からないけれど少なくとも3日以上は経っているだろう。そんなことを考えているうちに小雪の屋台が目の前に現れた。
「湊月、茜? なんかすっごい疲れた顔してるじゃない。やっぱりまだあなたたちにはこの世界は早すぎたかしら? 」
小雪は、笑っているけれどその顔には少し心配の色が見える。屋台には、本日は終了ですという張り紙を貼っている。少し高飛車なところは、あるけど根はいい子、いやいい神様だ。
「小雪ちゃんとこ、宿屋をやってるって聞いて、泊めてもらえるかな? 」
「なんだ、そんなこと? いいに決まってるわよ」
小雪は、なぜか呆気にとられたような表情になってそう答えた。私達がなにを聞くと思っていたのだろう。私は、ちゃっかり小雪のかき氷を頬ばりながら考える。
「私は、てっきりあの子の秘密でも聞きに来たのかと思ったわ」
「聞いたら教えてくれるの?」
思わず身を乗り出してそう尋ねる。やはり、任務に関係あることは気になるし。一度気になったものはなかなか忘れられない。
「そうね、私も今では大した役職にいないし。でも、この街中ではやめといた方がいいわね。うちに案内するわ」
着いてきて、と小雪は歩きはじめる。まともに街中を歩くのはこれが初めてかもしれない。謎がすっきりすることへの期待感も相まって私の心は弾んでいた。
「ここよ」
歩いて3分も経っていないような近場に到着した。そこは、白を基調にした大きな建物で、宿の中でも、元の世界の洋館をイメージさせるような宿だ。
「今日は、そんなにお客さんいないはず……。例の件で忙しいからね、やすめるうちに休んどきなさいよ」
本当に私達の身を案じているようで、この先が心配になる。小雪について行き長い廊下を歩いた。廊下には赤いふわふわの絨毯がひかれていて、まさに上品な洋館という感じだ。
「この部屋が、湊月たちの部屋ね」
かちゃりといい音を立てて鍵を開く。部屋の中も、家具は多くはないものの見るからにふかふかしたベッドが置かれていた。これは、絶対に熟睡できる。
「さ、もう部屋に着いたしそろそろ説明するわ」
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