第28話

ベッド同様ふかふかの椅子に腰かける。本当にこの世界は、どうなっているのだろう。見た目は全てふわふわ、硬さは自由自在だなんて。小雪が椅子にぽすんと座る。固唾を飲んで、小雪の言葉を待つ私達を見て小雪は笑った。


「別に、そんなに深刻な話じゃないわよ」


小雪は、そう言うと部屋のテーブルにあった大きなせんべいをバリバリと食べている。え、ここ小雪の家の宿のじゃないの? 洋風の部屋なのになぜ、せんべい? いや、そんなことはどうでも良いか。


「その子の名を白雨はくうっていうんだけど」


小雪は、せんべいを口に詰め込んで噛み砕くと、いきなり本題に入っていく。


「やんちゃなんですか? 」


「それだけなら、まだマシよ。子どもなんてたとえ神様でも皆そんなもんだから」


思わず、話を遮り敬語で聞いてしまった。でも、人見知りにとってタメは結構勇気がいるものだ。もしかして、白雨の問題点も人見知りだろうか?


「やんちゃなうえに、毎晩泣くの。人の世界でいう五歳? もう赤ちゃんでもないし、神様の精神こころの成長って地球の生き物より早いはずなのに」


「誰か、一緒にいて話をきいてあげるとかは? 」


茜がそう尋ねると、小雪はふるふると首を振った。


「それが、人が来ると余計に泣き叫ぶらしいからもんのすごく手を焼いてるらしいわよ」


「もしかして、地上の雨って……」


「そう、白雨の精神こころが安定していないからよ。強く泣けば泣くほど雨も降るし雷も鳴る」


つまり、白雨の精神こころが落ち着けば、地球は穏やかにもどる。私達はその子の気をしずめてあげれば良いということか。神様たちがそんなに手を焼いているというならかなり大変なのだろう。ただ、言葉を変えればただ子どもの面倒を見るだけ。


「意外とかんたん?」


小雪は、首をすくめた。その動きは、一体どっちの意味なんだ……。複雑な気持ちになってきて、考えるのも面倒くさくなってくる。


「湊月は、せんべい食べないの? 」


気づくと、茜は小雪と一緒にバリバリと音を立てながらせんべいを食べ始めていた。この上品な洋室で、美少女二人がせんべいを貪っているなんて。二人とも、超がつくほどのマイペースだと改めて実感する。


「腹が減っては、戦は出来ぬっていうじゃん? 」


茜がこちらに同意を求めてくるが、そもそも戦いに行くわけではない。こっちの世界に来てからというもの自分が思っているより常識人であることが発覚した。


「じゃあ、私はもう帰るから。何度も言うけど寝れるだけねときなさいよ! 」


そう言って小雪は、バタンと扉を閉めて出ていった。私達もそろそろ寝よっかとそれぞれベッドに潜る。


「おやすみ」


その言葉を言う暇もなく、私達は眠りの海へと沈んでいった。




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