第22話
私が見下ろしたその景色は、とてもこの前私達が住んでいたとは思えない景色だった。違う世界に間違えて来たのかと錯覚するほどに。
「茶色……いや、どす黒い? 」
「雨凄かったけど、まさかこんなことになってるなんて」
茜と私は、汚れた街を為す術もなく見下ろす。たしか、来る前にも豪雨が降っていた、でも、こんなに長引くとは誰も思わなかっただろう。しかも雨は今もバチバチと振り続け、クルムは雨雲を縫うように進んでいく。
「あか、そろそろあんないしてほしいもく」
茜は、力なく頷いた。理由は、この景色にショックを受けただけでは無さそうで不安になる。茜は地上をしっかりと見つめて何かを思い出すように道を案内していた。私は、なぜ知っているのか問うてみたかったけれど、茜は思いっきり聞かないでオーラを放っている。
「クルム、ここら辺」
とうとう西雲神社の上空へ到着したらしい。こんな時に神社へ参拝するような人なんているのだろうか。いるとしたら相当に信心深い人なのだろうな。クルムは、少し高度を下げる。とても、地上の声が聞こえるとは思えない高さだ。
「きくのは、こえじゃないもく、ねがいもく」
この雲は何を言っているのか。私がクルムに抗議しようとしたその時、リンと鈴の音がする。その音はどんどん早く、そして大きな音になってきた。澄み渡り、研ぎ澄まされた鈴の音は、社殿でまう巫女の姿を連想させる。そして、雨にかき消されてしまいそうなほどうっすらとした声が聞こえてくる。
『どうか、この災いをおさめください、』
これは巫女の、いや人間たちの
私の想いが両親へと矛先を変えたからか、その後巫女の声はぴたりと聞こえなくなった。茜と目線で会話をする。これは、早急にどうにかしなくてはならないと。
「もう、ねがいをきけたもくか? 」
クルムには、巫女の声が聞こえなかったようだ。私たちは神妙な面持ちで頷く。
もし私が心のない、空っぽの人間ならば願いがはっきりしていて仕事が楽だったとでも思えたのだろう。けれど生憎私はそんな冷淡な人間ではない、一人の人間として『伝言係』で終わっては行けないという使命感を感じていた。
未だ鳴り響く鈴の音を聞く度、私の想いはつよくなっていった。
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