第19話

 茜が指をさした先にあったのは、カラフルで小さな屋台だった。私たちと同じくらいの年に見える少女が、踊るようにして何かを作っている。さっきまでまばらだった人通りも、段々賑やかになっていく。


「湊月、あの子なにやってるんだろう。話しかけてみよ!」


 茜は、目をキラキラさせて興味津々。物怖じせず話しかけられる茜が眩しく見える。隣にいるはずなのにとても遠くにいるように感じた。そんな私の葛藤にはお構いなく茜はこんにちは! と挨拶している。


「こんにちは、あんた達人間? 私は、雪の最高神様から見初められた小雪こゆきよ、崇め奉りなさい! 」


 おーほっほっほなんて高笑いが聞こえてきそうな喋り方だ。白く透き通ったボブの髪で勝気な表情を浮かべている彼女に雪のような儚さはない。どちらかというと、ひょうあられに近いような。


「見初められたといっても、一瞬だろ。すぐに、こいつは無理だってこっちへ返されたくせに。」


 後ろからどこかで聞いた事があるような声が聞こえてきた。その声の主は笑っている。誰だったけな、この声。


「な、なんでここに朔がいるのよ! こっちに帰るのはまだ先って言ってたじゃない。」


 そうだ、朔だ。まだ、全然時間が経っていないのにだいぶ久しぶりな気がした。ちらりと小雪の様子を見てみると、雪のように白かった肌は、耳まで真っ赤になっていた。まさかと思い、茜に同意を求める。茜はしーっ、と人差し指を立ててこちらにウインクした。


「今日は、小雪に用があった訳じゃない。」


 先程までの吹雪のような勢いは嘘のようになくなり、粉雪のようにしんとしている。私も女子だ、少し小雪に同情する。


「まさか小雪のとこいたなんてな。湊月、茜、どの雲に乗っていけばいいのか分からなかっただろ。」


 先生は説明足らずなとこあるからな、と朔は付け足す。なんか似たようなことを先生も言ってたような。なんとなく視線を感じて、小雪の方を見るとこちらを恨みがましく見つめていた。そこで私はやっと気付いた。小雪が作っていた甘い匂いの正体に!


「小雪ちゃん、それってかき氷? 」


 小雪に尋ねたのは、もちろん私ではない。かき氷ってこんなに匂い強かったっけ? 茜も同じように不思議そうに見つめている。


「こ、これは別に人間たちのが美味しそうで真似をした訳じゃないわよ! 私の能力を使ってできた氷と甘いシロップをかけたお菓子」


 それをかき氷っていうんだよ。そう言いたくなったけれど、余計に機嫌を損ねてしまいそうだからやめておく。


「話を戻していいか? お前たち来る時はどうやって来たんだ、もし乗せてくれる雲がいたなら今も近くにいるはずなんだが……」


 朔が言うには、一度懐いた雲は元の世界でいう犬と飼い主のようにずっとそばに居てくれるらしい。クルムは、何処へ行ってしまったのだろう。もしかして、もう二度と会えないとか、ないよね? どんどん薄暗い雲が心にかかって行くような気がした。

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