第18話

 歩いているとき、ずっと脳内でさっきの出来事を思い出す。胸の奥が虫歯になっているかのようにズキズキした。そんなことはありえないけれど、同じくらい衝撃的なことが目の前で起こったのだ。


「神様も陰口とか言うんだなぁ」


 私は、誰からも聞こえないように掠れ声で呟いた。私が、人見知りになったきっかけも確か陰口。そこまで思い出して、私は考えるのをやめた。


「困っていることをお前たちの眼でしっかり判断してきてくれ、一つまでしか対応できないからな。人間たちの願いこえを聴いて判断してくるように」


 言うだけ言って、先生は城の中へと戻って行った。取り残された私と茜は、とりあえずお城の敷地から出る。


「あー、私ああいう汚くて乱暴な陰口だいっきらい! 」


 茜はだいぶ怒っているようだった。もちろん、私も怒っているけれど知らない人が知らない人の悪口を言っていたからか少し落ち着いている。


「湊月も、そう思うでしょ」


 共感を求められて、うん。としか言えなかった。あまりにも茜の勢いが凄かったし、これも私達からあの人たちへの陰口になるんじゃないかと思ったから。茜と出会ったときは、八方美人のいい子ちゃんかと思っていたけど、こんなに憤慨するんだな、と少し意外だった。


「それもそうだけど、雲に乗って行くってどうすれば? 」


 もしかしたら、またクルムに会えるかも。と周りを見渡すけれどそこにクルムの姿はなかった。荒んだ出来事があった後は無性に癒しがほしくなるなぁ。


「うーん、クルムが来ると思ったんだけどね、探してみる? 」


 茜もやはりそう思っていたようだ。私達は、シエロの探検も兼ねてクルムを探すことにした。まだまだこの世界は、分からないことが多すぎる。そして、なんだかものすごくいい匂いがするのだ。甘くてふわっとしたいい匂いが。


「湊月、なんかめっちゃ美味しそうな匂いするんだけど」


「うん、左の方からかな」


 匂いに釣られるように私達は、歩き出す。そこで気づいた。街の景色は明るく軽やかなのに雰囲気がまるで違っている。例えるなら、煌びやかなホールの施設でお葬式をしているような感じ。茜もなにか気づいたかな、と横を見るも全く気づいていないようだ。犬のように鼻をくんくんさせて匂いを辿ることに集中している。私は半ば呆れて茜に話しかける。


「茜、そんなに必死にならなくても……」


「だって、イライラしたら甘いもの食べたくなるじゃん」


 気持ちは分かる、と頷いた私になぜか茜は勝ち誇った笑みを浮かべる。気のせいか、茜の歩くスピードが速まっているように感じた。段々匂いが近づいてくる。


「あれだ! 」


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