第20話

茜にどうしようかと隣を見る。しかし、さっきまであった茜の姿が消えている。茜までいなくなってしまったの? 不安に支配された私は冷静に周りを見ることができなくなってしまっていた。


「小雪ちゃん、これ美味しいね。私こんなかき氷はじめて」


「当たり前でしょう! 人間達のはまだまだ、きめが粗いのよ! あと特製シロップもポイントね 」


「茜……」


もはや呆れてしまった。私が心配症過ぎるのは事実だろう。ただ、それと同じくらい茜の脳天気さもかなりのものだ。なんたって、湊月も食べないの? と聞いてくるほどだから。


「茜ー、私達クルムがいないと任務遂行できないんだよ。あの先生怒ったら絶対怖い」


私はかき氷と同じ、いや、それ以上の冷たい視線で唯一ともいえる友達を見つめる。その視線に気づいているのかいないのか、茜はひたすらにかき氷を食べ進める。朔は、忙しいからとどこかへ行ってしまったし、小雪は自慢気な顔つきで、かき氷の制作過程をあかねに説明している。ここに味方はいない、それを悟るには十分すぎる状況だ。


「湊月、食べないともったいないよ。私おかわりしようかな」


「おいしいもくよ」


「うん、美味しいのは分かったからクルムを探さないと……」


そこまで言ってふと我に帰る。さっきまでいなかったはずの声が聞こえてきた。どういうこと? これじゃあ、私が考えすぎの阿呆みたい。落胆している私に対し、クルムと茜は幸せそうにかき氷を頬張っている。


「クルムは何してたの?」


少し怒りっぽい口調になってしまったと反省したが、クルムからの返事によって私の反省は一気に消滅する。


「ちょっと居眠りしてたもく」


呆れてものも言えないとはこういうことか。私の怒りは小さな火種からかき氷を溶かしそうになるくらいまで燃え上がっていた。怒りそうにない穏やかな私が燃えているからだろうか。その場に緊張がはしる。


「ま、まあこうして戻ってきたんだし。許してあげよ、ね? 」


「そ、そうよ。あまりカリカリするのは可愛くないわよ! 」


必死に2人になだめられるも、私の炎は鎮火しない。すごく心配したのだ。それなのに、理由が居眠りだなんてあんまりだ。


「おきたら、おいしそうなにおいがしてたもく。やっぱりおいしかったもくっ」


当の本人は、私の怒りに全く気づいていないようだ。逆に、それが私を落ち着けるのに、一番効果的だったらしい。呆れを通り越して笑えてくる。これから、このマイペースな雲とお仕事をしていくのか。


「前途多難だ」


ボソッと呟いた私の声は誰の耳にも届かなかった。

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