第15話 お城と先生
クルムは、元からそこまで高くなかった高度を更に下げ、私達に降りるように促す。恐る恐る降りると、お城のような複雑な形をした雲が私たちの視界を圧倒する。
「ここもくっ! 」
「ここは……王様とかが住んでいるの? 」
私は、思わず聞いてみた。本当に、女の子が一度は夢見るプリンセスが住んでるような大きな西洋風のお城だったから。周りの建物とは違い、白一色で色による派手さはないけれど、ただならぬ存在感がある。思わず仰け反ってしまうほどだ。
「おうさまは、すんでない、もく。」
なんとなく、歯切れの悪さを感じる返事に引っかかるけれど、そんなことを一瞬で忘れさせてしまうほどにそのお城は美しかった。
「ここに、先生がいるんだよね! クルム」
「そうもく、このせかいでせんせいとよばれているのは、あのひとだけもく」
茜の質問に、クルムは自信満々だ。先生で通じる人って一体どんな人なのだろう。お説教が長いとか、課題を提出させられるとかじゃないといいけど。私は、まだ名前も知らない『先生』をあれこれ想像する。
「
茜がこっちを見て大爆笑している。そんなに笑うことかな、けっこう誰でも考えることだと思うけど。だってそう思わない? と抗議の声を上げるも、さらに笑われるだけだった。茜の笑いのつぼよく分からないな。
「お前たちか、城の前で呑気に騒いでるやつは」
後ろから声が聞こえて、茜と共に振り返る。ああ、この人が先生なんだなとなぜだか予想がついた。汚れ一つない白衣に、こだわりのなさそうな眼鏡。理知的で少し神経質にも見える。手には、資料が沢山挟まったファイルのようなものが入った鞄を提げている。これは、お説教がめんどくさいタイプだな。
「
先生は、そういうと城の方へと歩いていく。決して速くはないけれど、足が長いせいか一歩が大きい。ただの女子高生の私と茜はついて行くのに精一杯だ。
「またねもくっ! 」
クルムは城に入る前にそう言ってどこかへ消えてしまった。クルムに和ませてもらっていたこともあり少し寂しい別れだったのに、先生がどんどん歩を進めるためゆっくり挨拶が出来なかった。
「大丈夫だよ、湊月。またねって言ってたからきっとそう遠くないうちに会えるよ」
茜が、私を励まそうとそう言ってくれる。そうだといいなあ。あれ? 私、思ったよりクルムのファンになってる。
「とりあえず、この部屋で説明する」
とうとう任務の全貌が明らかになるのか。
私はごくりと唾を飲んだ。
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