第10話 不穏な雨と旅立ち
「梅雨も明けたはずのこの七月、全国では異常な大雨、落雷、竜巻などの自然災害が多発しています。皆さん、今一度防災用品の確認。そして身を守るための行動をお願いします。」
七月十六日。私がとうとう天界へと旅立つ日の天気は、最悪だ。いや、今日だけが最悪な訳ではない。ここ数週間ずっとこんな天気だ。今日虹が出るなんてにわかには信じ難い。
「次のニュースです。東町二丁目で小学生が何者かに……」
私は、そこでテレビを切った。最近はこういうのばっかりだ。あと十分で約束の時間。もしここに親がいたら、間違いなく外出を止めるだろう。しかし、今日も両親は仕事を頑張っている。私がいなくなったら、あの二人の記憶からも消えるのかと思うと胸が痛い。ザーと傘にうちつける大きな雨音が、考えるな、とでも言うようにうるさかった。
「
「茜、おまたせ」
なんとその言葉を合図のように、どす黒い雲はわたあめのようになり、夜のように暗かった景色はみるみる輝いていった。
「嘘、でしょ……」
状況が呑み込めない。こんなに一瞬で変わるものなのか。私は、目の前の光景があまりにも非日常的で一周回って落ち着いていた。
「湊月、すごいね。私たちはこれを登って
茜が言うように、私達の目の前には見たことも無いような太さの虹が雲へ向かって力強く伸びていた。虹とは、太陽の光が雨粒の中で屈折・反射して七色に分かれているもの。と辞書にあったはずだが、目の前のそれは光であって、光では無かった。
「これが、虹? 」
「うん、きっとそうだよ。私たちはこれを橋にして上に行くんだね」
茜はうっとりして言った。私も、興奮はしていたけれどもう引き返せないんだな、とこっそり覚悟を決めていた。飛行機の荷物検査を通り抜けた時のような高揚感と、ほんの少しの寂しさが心にじんわりと染み渡る。
「ママー! 虹ー、みてみて! 」
「こんな豪雨の中に虹なんて見えるはずないでしょう。ずっと天気悪くて変なもの見えてるのかしら」
「ママ! ほんとに虹だよ、すっごい綺麗」
通りすがりの親子の声に気を取られていると、茜に肩を叩かれた。
「湊月、登っておいでよ! 」
私が茜のほうを向いたとき、もう茜は半分くらい登っていた。私も恐る恐る虹の上に足を置く。その瞬間、するすると勝手に足が進んでいた。
「さようなら、私の生まれた世界。今までありがとう。」
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