コラム

《コラム》神々の業

◎記録『フラグメント・■■■■ナイト』


・ウーツ鋼

人類は無限の火とも言えるニュートロンエンジンを手に入れ、制御下に置いた。

しかし、その過程で様々な研究と課題、そして副産物が生み出されていった。

その一つがウーツ鋼である。


陽子や中性子の結合には限界があるのか。

通常、原子核同士の斥力が大きくなり水素、ヘリウムから始まった反応はある原子で収束する。

これを核融合反応と言う。

この反応の限界点で生み出される元素は陽子量の反発が少なく、結合力も極めて高く非常に安定した性質を持つ。一方でこの物質は他の物質との結合を起こしやすいと言う特徴を持っていた。

魔術の進歩と研鑽とを続ける中で、この物質の先にある物質を作り出す方法はないのか――すなわち、原子核の斥力による反発を制御し、核融合反応の先を見れるのではないかと考えに至る者は少なくはなかった。

しかし、これこそが大きな誤算だったのだ。


結果的にこれらの妄想は全て失敗という結果だけが残った。

人の持ちうるあらゆる手段を投入してもなお、核融合反応はある原子に至り止まる。

まるでそれこそが世界の摂理であり、これより先には魔法でもなければ越えられぬ領域であることを人類は理解した。

総てのアプローチが失敗に終わったが、成果が無かったわけではない。

かつての錬金術がそうであったように、ヒトの知る積み上げてきた常識のいくつかは覆り、得られた知見は多くの革新的な成果物を得られたと言える。


核融合反応の終着点として生成される元素――すなわち『鉄』。

長きに渡りヒトの文明の根幹を支える一つであったこの物質の性質の全てを、人類は理解していたはずであった。

しかしながら、手にしたばかりの火である核融合反応と言う炉から得られた鉄は完全に未知の特性を持っていた。

構成する原子はいずれもが既知の中性子数、同位体として安定した物ばかりであると言うのに、その結合においては完全に未知の構造をしていた。

転んだ先で掴んだ石は、ヒトが夢想していたあらゆる夢物語を現実のものとしうる可能性を秘めていた。

特異な結晶構造を元にし、新たに生み出された合金の一つは異様と言えるまでの特性を持つこととなった。

強力な靭性を備え脆性破壊に対する驚異的な抵抗を示し、あまりにも強固な結びつきにより酸へ反応を示さず、電気分解への抵抗を持つ。

おおよそ考えうるほぼ全ての外的要因による干渉を拒絶する異様な物質。それはまさに数々の神話や伝承で謳われる架空の金属と同等、あるいはそれ以上の性質を示した。


宇宙誕生以来から存在する核融合と言う火で煮られた炉。この古の炉心より生み出された金属を、同じく古代にヒトの作り上げたその名に準じ『ウーツ鋼』と名付けた。




◆2+$*report『フ?>;メント・ストリング@!♭&』


|an.19


旧■■■■■■■大陸ミーミルスブルン種子保存計画貯蔵庫、構築完了。

M9.0クラスの直下型地震及び、純粋水爆の直撃を想定した耐久性と熱及び放射能遮断を実現。

■■■汚染、存在情報改変以前の実態収集及び収容を想定。


F£].7


アイザワ・マッケンジー予測に紐付けられる未知の量子運動法則が発見される。

波動力学による再定義、及び存在確率を立証するための追試開始。


/=e|3.22


クメール連合代表、海水面上昇に伴う緊急声明。

ウテュケンへの避難、大規模移民計画を立案。

周辺国からの批判が高まるも強行。大規模な武力衝突が予見される。


\a[z.14


コロニー・ヤディス=ゴー活性化。

ウェルガマ、覚醒。ザクセン自治政府崩壊。


/-*r.6


未知の量子運動法則に関して「魔術」と定義。

各方面から多数の批判を浴びるが、発生起源がポイント・ネモ浮上に伴う物であることから一定の理解を得られる。

同日、アサバスカ難民地区、ヤマンソにより八割が焼失。周辺住民のおよそ半数以上が死亡ないし行方不明となる。


nn(L/.19


チチュルブ・クレーターに隕石落下。

詳細不明。


_]L|>.4


人間の意識のデータ化、大部分が成功。

各国閉域網環境への移行を開始。


Jun.31


秋津洲化学、前年発見されたマグネシウムとケイ素を主成分とする粘性物質を生命と断定。


_|บ|.7


マクスウェルの悪魔による熱力学第二法則(熱力学的エントロピーの増大則)の破れが決定的に。

GA社及び多賀城電工、仮称「魔術」による操作を用い立証。

新華山王公司、技術盗用であると批難。独自の実証実験内容を公開するも、検証内容に不可解な点が複数指摘される。


Д|_|(?.15


全人口、10億人を下回る。

特別■■■■■・ノア、進捗に大幅な遅れ。


|2-|o.11


情報理論に基づいた存在情報式、及び存在確率定義による揺らぎの検証が終了する。

存在情報に付随した特定のコードにより、情報として「ある」と「ない」の重ね合わせ状態が発生。

現実改変事象の追試開始。


0[†.29


仮称「魔術」による重力波制御、ならびに付随するリップ・ヴァン・ウィンクル効果の実証実験開始。

現段階で100億分の3.2秒の遅延を確認。


/Vh|/.2


北極海上空にて時空断裂現象発生。スヴァールバル暫定政府、消滅。

特別■■■■■・ノア、失敗宣言。


/}\|.26


ヴーアミタドレス山、噴火活動再開。

詳細な観測不可能。


)3<.12


SE社、虚数領域からの実数領域存在情報に対するアプローチに成功。

仮称「魔術」を用いたシミュレートにより、実数領域との鏡像関係を立証。

現実改変事象への対抗策として全世界に共有化。


Dec.31


時空間異常の根本原因が判明。

連続時空間ベクトルのねじれ現象は時間ベクトルの一点(±50年)の影響である。

対象座標年における存在確率の著しい低下傾向が見られる。

対象年はA.D.■■99年。

時間探査開始。




◆仮称「魔術」


・被検体X-75、X-76


後頭葉の発達を確認。

特定周波数下における受容野の著しい活動を検知。

未知のニューロンによる大脳ネットワーク構築。


・被検体P-59


電波遮断環境化において事故発生。

原因不明の発火現象を確認。

間もなく鎮火が確認される。

該当被検体は全身に熱傷。右腕切断、右外耳を失う。

経過観察は継続。


・被検体R-63


管理棟内の重力異常を検知。

最大値3.1G、連続19分間継続。


・被検体R-12


脳幹内レプタイル領域および感覚神経路の肥大を確認。

染色体の変質、RNA塩基に未知の構成要素を検知。

対象はC因子移植検体。



上記、各事象の共通項を精査検証。


・分子、原子、及び原子核における未知のふるまい


・熱力学第一、第二法則の破れ


・グルーオン、グラビトンの異常検知


以上の観測結果はいずれも既知の物理法則を覆す事象であり、■■■■らの引き起こした現象と根底として同質の物である。

世界の法則を書き換える■■■■の手段を仮に「魔法」するのであれば、それらと区別するため仮称「魔術」と定義する。


引き続き、調査、観測業務を継続。



作者補記:

古文書であるために、断片的に情報が欠落、復元できなかった当該箇所は■で表現されます。

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