機動甲冑『エールセルジー』

機動甲冑『エールセルジー』

魔術属性:雷(水+風)


概要:

局地強襲型機動甲冑。

数ある機動甲冑の中でも稀有な四脚の機体。

本機を初見したシャルルはおとぎ話で聞く『ケンタウロスのようだ』と評した。

発見時は上半身の損傷が特に激しく、修復においてはルナティアにて新造された装甲や部材が多用されている。

特異な形状ではあるが、接地時の安定性は高く、接近戦において優位を保ちやすい。

また、この四脚により平原、山岳、市街地、湿地などの環境に左右されない運用を可能としている。

四脚以外の特徴として、全ての脚部裏面に存在する複数枚の羽根が折り重なった部位である。

当初、放熱板と考えられていた部位であるが、稼働時には羽根同士の間に魔力をプールし、露出部分を魔術でコーティングしている事が判明する。

これにより想定される材質構成以上の堅牢さを保ち、なおかつプールした魔力により補給が叶わない状況においても長時間の稼働を可能する機構である。

武装は長大な槍一振りのみ。

突撃時の刺突、接近時の斬撃、打突など取り回しは良好。

また、状況に応じて形状変化し、近接武器としては非常に優秀な武装となっている。


エールセルジーはルナティア建国後まもなくして発見された機体である。

発見時は全身の大半が土中にあり、各部の破損や喪失、侵食は深刻な状況であった。

推定される各部材の製造年代は、いずれも先に発見されていたボーパレイダーのそれよりも古く、また特異な形状を持つことからかなりの長期間の作業が求められた。

作業の長期化に伴い、予算不足に陥り、王立博物館の支援を受けて修復を完了したと言う経緯がある。

王立博物館での保管展示、機体の塗装色などは当時の王立博物館側の意向を反映したものである。


武装:

突撃槍「アイグロス」




・資格者


古代帝国時代の資料の中で都度、言及される存在がある。

かつての帝国においては中核戦力であるとされ、彼らに絶対的な命令権を持つのは古代帝国の盟主である皇帝ただ一人であると多くの文献で記載される戦士たち。

彼らについて語る古い詩が残されている。


終末の時来る。

凄まじき戦士たち、星の彼方より降臨す。

戦士はたった一人で数千の敵を薙ぎ、大地を斬る。。

戦士はたった一人で数万の民を守り、海原を破る。

戦士はたった一人で数億の時を巡り、天空を裂く。

悠久の時を超え永劫の果てにて彼らは極天に至る。


古い言葉で『刃を持つもの』と綴られる彼らを、ルナティアでは『剣を振る資格を持つ者』『資格者』と呼称し、古代帝国に習い特段の武勲、戦勲を刻んだ者に送られる栄誉称号とすると定めた。

しかし、ルナティアは建国以来、小規模な武力衝突はあったものの、特筆すべき戦乱が起こることもなく、太平の時間の中で緩やかに繁栄の歩みを進めていたこともあり、律法書の中に綴られる形骸の勲章と化していた。


やがて、機動甲冑の研究・解明がルナティアにて進められる中、『資格者』とは機動甲冑の操者であったのではと言う仮説が立てられる。『資格者』たちの登場、活躍が記された文書と機動甲冑の生まれた時期がほぼ一致し、さらには互いの数が同数であったことから関連付けられた。

この仮説は概ね正しい物であると断定されたのは、古代帝国の滅亡から千年の時が経過し、再び機動甲冑がルナティアで目覚めたタイミングでもあった。



・魔術と魔法


古代帝国時代より更に過去。

神々が天地の創造と覇権を巡り対立を繰り広げていた神話の時代において、それら人間をはるかに超越した存在たちが行使した術式。

それが『魔法』と呼称される物である。

白紙のカンバスであった大地に描き殴り、大海を彩り、天空を染めた数々の業。

それらは世界に刻まれた理。すなわちルール、約束事として記されることとなる。

物が上から下に落ちること。ある温度で物が燃えること、凍ること。季節の巡りがおよそ三六〇日の周期であること。

人智を超越した彼らの残したありとあらゆる術は、しかしかつての超越文明である古代帝国をもってしても再現が敵うことはなかった。

だが、古代帝国は神々の扱ったそれら御業のごく一部を模倣、デッドコピーするに至る。

それらが『魔術』と呼ばれ、ルナティアにも継承された物である。

魔術とは魔法の模倣に過ぎないが、その結果として実現する物が必ずしも魔法に劣ることとは限らない。

機動甲冑を生み出した古代帝国の技術はまさにそれを証明するものであり、神々の残した物は伝聞口伝のみであるが、人類文明はたとえ自らが滅ぶとも鋼の巨人を千年の夜を超えて次の人類に残したのである。



・属性


古代帝国中期に記され、ルナティアに伝わる最古の魔導書の冒頭には次のようにある。


人界に六の門在り。

火、風、水、土、聖、魔。

巨神の鋳造せし門より溢れし素は坩堝に注がれ天地と為る。

芥に過ぎぬ者、許しを以て盃に受け、汝らの術とせよ。


この世界を形作るありとあらゆる物が六種の属性に影響を受け成立しているとされる。

すなわち、その理である魔法から零れ落ちた技術である魔術も大いに属性の影響にあることに他ならない。

万物は必ずこの六種――六門の属性のいずれか一つを持つ。

鳥、魚、獣、木、山……天地にあるすべてにである。

しかし、例外が存在する。

それが人である。

人のみが特権的に二種の属性を持って大地に生まれ落ちる。

古代帝国のような超大国を作り上げ、繁栄させ、機動甲冑のような超越した技術に至り、国が滅んでもなお新たな王国を創り上げることを可能にしたことの証左でもある。

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