第2話 出会いと決闘

 喉が渇いた――。


 星の光もない真っ暗な道をただ独りで歩く若者は、凍えるような寒さの中で身体を起こして先を進んでいた。

 だがいつの間にか、辺りは明るくなり、穏やかな日差しに包まれていった。やがて見覚えのある景色が広がっていく。

 そこは白詰草トレーフルが一面に敷き詰められた豊かな庭園だ。色とりどりの花々も咲いている。幼馴染がお気に入りの場所だった。


 ねぇ、シャルル――。


 天使の歌声のような美しい声。羽毛で首筋を撫でられたように背中が震えた。


「カトリーヌ!」


 振り返れば金髪碧眼の幼馴染があどけない笑みを浮かべ、純白のドレスを身にまとって無邪気な瞳を彼に向けていた。身体が跳ねて、華奢な身体を抱きしめる。


「よかった、またお前に逢えて……本当によかったッ」


 そして我に返った。ここで逢えたのが僥倖ぎょうこうでも、油断はできない。


「カトリーヌ、こんな場所にいちゃだめだ。お前をさらいに来る悪い奴がいる。俺と一緒に逃げようッ! 誰も追いかけてこれないところに」


 その手を握りしめようとする。だが、なぜか掴めない。それどころか、抱きしめていたはずの白いドレスがすり抜けてしまっていた。

 幼馴染の手を掴んでいるのはフランス王太子ヴィエノワのドーファン――かつて父アルテュールとの戦いに敗れてプロヴァンスの領地を父に奪われたフランス王の息子であった。


「おい、やめろ……やめてくれッ!」


 必死に追いかけようとしたが追いつけない。

 いつの間にか、槍を構えた兵士たちがぐるりと彼を取り囲み、行く手を遮った。

 絶望が再び若者を包んでいく。


「行くなカトリーヌ、行くなッ……行っちゃダメだぁぁぁァァァァァァッ!」


 絶叫とともに彼は飛び起きた。


 ***


「どうした、何事だ!」

「侍女殿が手当てしていた旅人の様子がッ」


 赤髪の武官アグネアが腰に下げた長剣に手を掛けつつ、旅人のいた天幕に向かう。

 そこから中の様子を窺うと、腰を抜かした侍女ヘレナと、上体を起こしたまま目を見開いて絶句している旅人が向かい合っていた。


「侍女殿、何があった」

「旅の者が目覚めたのですが……」


 すると旅人とアグネアの目が合った。旅人が何かを口にしたが意味がわからない。まったく言葉が通じないようだ。


「異国の者か……聞いたことのない言葉をしゃべやからのようだな」

「おかれた状況がわからず、取り乱しているようなのです……少し落ち着くのを待つ必要がございます」

むをまい。どのみち今日はここで野営するしかないんだ」


 当初この場に留まることに反対したアグネアも、今はここで一晩明かしてから王都に向かう腹を決めている。急いでこの場を離れるよりも、何もないがゆえに見通しのよい場所で安全を確保したほうがよりましだ――そう割り切っていた。


「ヘレナ様、湯をお持ちいたしました」

「ありがとう、イリニ」


 言葉が通じないのであれば行動で意思を伝えるほかなかった。

 ヘレナは木の器に入れた白湯さゆを用意させ、言葉の通じない旅人に差し出した。旅人はそれを呑み干した。よほど喉が渇いていたようなので、おかわりを用意させた。


 旅人が落ち着いて眠った頃合いに王女ソフィアが様子を見に来た。


「ヘレナ、旅の者が目覚めたそうですね」

「はい、白湯を与えました。水や食料を持っていなかったので、喉が渇いていたのだと思われます。数杯口にしてからもう一度眠りました」

「きっとお腹も減っているのでしょうね」

「はい。すぐに食事を与えるのはかえって身体によくないので、白湯だけを与えて、体温と胃腸の働きが戻るのを待つことにいたしました。次に目覚めたらかゆを与えようと思います」

「アグネアから聞きましたが、言葉が通じないのですか」

「そのようです。私が知るどの言語にも当てはまらない言葉を喋りました」


 他国への外遊の機会が多い王女ソフィアと随行する侍女ヘレナはともにいくつかの言語を理解する多言語話者であった。その二人でさえ耳にしたことがない言語を喋る旅人は、相当遠い国から来たのかもしれない。


「そうだ、とっておきの手段があるじゃない。あれを使いましょ」

「あれとは……」


 怪訝そうに表情を曇らせた侍女が何かに気づいたらしい。驚いた顔をする。


「『叡智の首飾りコリエ・ソフィアス』……あれをお使いになると?」

「何かあればと持ってきたんだから、この旅人に使えばいいじゃない」


 それは『叡智ソヒアー』に由来する名をもつ王女に贈られた魔術道具である。言い伝えによれば、ルナティア王国が成立するよりも前に存在した古代バルティカ帝国時代に作られたものだ。

 この一帯を治めた帝国は現在のルナティアよりはるかに大きな版図はんとをもつ多民族国家であり、言葉の通じない未開の民と意思疎通を図る目的で会話能力を付与する高位魔術が生み出されたという。そのような高度な魔術を術者を選ばずに発動させる触媒がこの首飾りである。

 数年前から外交の舞台に躍り出た王女はこの首飾りとともにいくつかの国を回ってきた。言葉の不自由を感じることがなかったので使う機会はなかったが、この旅人に使ってみよというのだ。


「よろしいのですか?」

「かまわないわ、わたくしの私物だもの」

「かしこまりました。イリニに持ってこさせます」


 侍女ヘレナが旅人の眠る天幕を出て、他の使用人を探しに行った。その間王女ソフィアはただ一人、旅人の姿を観察することにした。

 六フィート一八〇センチメートルを優に越える背丈に太くてたくましい腕と脚――彼女たちよりずっと恵まれた体格をしている。どんなものを食えばこんな丈夫な身体に育つのか、ソフィアにはとても興味深かった。


「……うっ、うぅ……」


 王女が愛用していた毛布にくるまっている旅人が苦しそうに悶えた。何か悪い夢にうなされているようにも見えた。


「大丈夫、あなたは死なないわ」


 王女が毛布の中を探って旅人の右手をしっかり握った。そして、顔をひきつらせた旅人の耳元である子守唄を口ずさむ。

 すると旅人のこわばった表情筋が弛緩してゆき安らかな寝息を立てて眠った。


「王女様、いかがなさいましたか」

「悪夢にうなされていたから眠りの魔術を使ったの」


 銀髪の侍女ヘレナがもう一人ブロンドの髪をした使用人を伴って戻ってきた。その使用人は呪文を書きつけた紙で封をした木箱を大事に抱えている。紙に書かれた文字は経年劣化のせいか、かすれて読めなくなっている箇所も多かった。


「王女様、首飾りをお持ちいたしました」

「ありがとう、イリニ。ではヘレナ、お願いね」

「はい。それでは失礼いたします」


 ブロンドの髪の使用人から木箱を受け取った銀髪の侍女はその封を解いた。木箱の鍵を開けると箱の蓋がはずれ、中から一つの首飾りが現れる。真ん中に黒曜石オブシダンをはめ込んだ意匠の首飾りはかなりの年代物で、ずっと木箱の中に入れて大切にしまわれていたものであった。

 侍女は首飾りを手に呪文の詠唱を始めた。


「コマンド・アクティベーション――オリジンタイプ・バリデーション……ウォラー、ダーク――」


 銀髪の侍女が古代語の呪文を口ずさむと首飾りの黒曜石に刻まれた古代文字がうっすらと光を帯びはじめた。彼女は心で念じながら、みずからの魔力オドを手にした首飾りへと流し込んでいく。


 汝、この者の有様を紐解き、地を這う者と同じ言霊を綴る者とせよ――。


 そう念じて旅人の胸の上に首飾りを置く。刻まれた文字が無数の光を放っては消滅を繰り返した。やがて文字が光る花びらへと変化して深い眠りの中にあった旅人の上にゆっくりと降り注いでいく。

 その光景を一歩後ろに引いていた王女が身を乗り出すようにじっと見つめていた。


「これが帝国時代の高位魔術……綺麗、なんて美しい術式なんでしょう……」


 王女ソフィアは青い目をキラキラ輝かせて、その様子をずっと見守っていた。


 ***


 結局、日が暮れるまで王女たちはその場を動くことなく夜を迎えた。街道に面した開けた原野に天幕を張って臨時の宿営地とした。

 使用人たちは煮炊きを行い、王女たちは食事を済ませた。魔術で眠っていた旅人も目覚めたので侍女ヘレナが粥を与えた。


「少し熱いですが、召し上がってください。体力が戻ります」

「あり……がとう……おねえちゃん……あちちっ!」

「大丈夫ですか?」

「う、うん……だいじょうぶ……たべ……られる……よ……」

「身に付けていた衣服は湿って体温を奪うので脱がしてしまいました。新しい衣服を用意したので、食事が終わったらそれに着替えてください」

「……ありがとう」


 早速魔術の効果が表れ始めた。言葉がたどたどしい様子で五歳児くらいの語彙しかないが、まったく言葉が通じなかったことに比べれば大きな前進である。その様子を陰で見守っていた王女ソフィアは感動していた。

 食べ終わった食器を持って天幕の外に出てきたヘレナをソフィアが呼び止めて話しかけた。


「ねぇ、ヘレナに近い年頃にしては言葉が幼すぎないかしら」

「知能に作用する高位魔術と聞き及びます。効き目が表れるまでに時間を要するのかもしれません」

「……わたくしも話しかけてみていいかしら」

「食器を片付けたらまたここに戻ります。その時にご一緒いただければ」


 ランタンを手にした侍女ヘレナは原野の上で魔術を使って器の汚れを落とし、また戻ってきた。


「仕事が早いわね、ヘレナ」

「清潔な水がなかったので、水の魔術で手早く綺麗にしてしまいました。海の近くで湿気がございますので、空気から水を取り出しやすかったのが幸いでした」


 侍女ヘレナは王国侍従長トラキア伯の次女で、魔術の取り扱いにも習熟していた。とりわけ水を取り扱うことに慣れており、新鮮な水が得られない場所でも少量の真水を作り出すことができる。旅する王女一行にとっては大変心強い仲間であった。

 そのヘレナは天幕の中をランタンで照らすように覗き込んだ。素っ裸だった旅人は今は袖の長い肌着を身に付けていた。


「失礼します。お加減はいかがですか」

「うん、よくなった」


 ヘレナが天幕に入り、ソフィアも続く。ランタンで照らされた旅人の血色は身柄を拾ったときよりもずっと赤みが増していた。その表情がもう一人の同伴者を目にしたとき、凍り付いたように変わった。


「……カトリーヌ」

「えっ……」

「やっぱり、カトリーヌじゃないかッ。よかった!」


 カトリーヌと呼ばれた挙句あげく手を握られて絶句する王女ソフィア。そんな王女を凝視した目を潤ませて旅人が初めて笑った。王女と並んで、目をぱちくりとさせた侍女が訊ねた。


「ええと、旅の方……カトリーヌ、とは?」

「この子のなまえ、ぼくのおさななじみさ」

「はぁ……」


 王女と侍女が揃って顔を見合わせたところにもう一人、赤髪を靡かせた武官が剣を腰に差してやってきた。目を細めて旅人を一瞥し、鋭い声で叫んだ。


「貴様、王女殿下に触れるとは何たる不敬だ!」


 その声に王女も侍女も旅人もたじろいだ。


「殿下、そのような言葉も通じない野蛮やばんな者と気安く触れ合うのはおやめください。何をされるかわかりません」

「あ、アグネアっ」

「夜も更けてまいります。さあ、戻りましょう」


 王女の手を引き、武官が天幕を出たとき、殺気を感じて振り返った。


「……いま、なんつった……」


 肌着姿の旅人が肩を怒らせ、赤髪の武官を睨みつけた。たどたどしい五歳児の言葉遣いには到底似つかわしくない修羅の形相であった。


「……そこのアマ、へんなこというとぶっころすぞ」

「少しは喋れるか。ふん、品の無い言葉だな。生まれの醜さは隠せんか」


 怒れる旅人に物怖じしない武官。一触即発といった様相に王女と侍女が凍り付く。


「なんだとこら、しばくぞ」

「やれるものならやってみろ、返り討ちにしてやる」

「んだとぉ、ぶっころす!」


 売り言葉に買い言葉。旅人と武官はその場で「殺し合い」を始めたのであった。


 天幕の片隅にまとめてあった旅人の荷物。それを見つけるや、栗色の髪の旅人は長剣を拾って鞘から抜き放った。


「おれとけっとうしろ!」

「貴様正気か、後悔しても知らんぞ」

「なかすぞこらぁ!」

「いいだろう、身の程を知るがいい」


 赤髪の武官もまた腰の剣を抜いた。

 抜き身の刃が青い月明かりと真っ赤な篝火かがりびにきらりと光る。

 互いに睨み合う二人の雰囲気に王女ですら身がすくみ口を差し挟む余地がない。


「イヤアァァァァッ!」


 走る旅人。

 治したばかりの刺傷の存在を忘れ、狼の如く飛び掛かる。

 睨む武官。

 赤いたてがみを風に靡かせて身を翻し、獅子の如く迎え撃つ。

 先の先、後の先。

 俊敏な餓狼と堂々たる獅子の打ち合う剣戟けんげきの音が虚空に消えていく。


「貴様……下﨟げろうにしては大した腕前だ。どこの者だ」

「『おうのたてもち』のだんちょう、シャルル・アントワーヌとはおれのことさ」

「なんだそれは、初めて聞く名前だ」


 距離を置いた赤髪の武官が口元に笑みを浮かべた。


「だが、貴様の剣筋は実に面白い。斬り殺すのが惜しくなってきた」

「そういうおめぇはどこのどいつだ」

「私か? いいだろう。ルナティア王国正規軍士官、アグネア・クラウディアだ」

「しらねぇくにだ。どこのいなかだ」

「このバルティカでわれらが国号を心得ぬとは、野蛮人ではないか」

「……みぐるみはいでおかしてやる」


 また剣の打ち合いが始まる。

 周りの者たちは火花がはじけ飛ぶ激しい決闘に圧倒されていた。

 吹き始めた風に美しい髪を逆立てた王女だけは目が据わっていた。


「……いい加減にしなさい。二人とも」


 お構いなしに「殺し合い」を続ける二人に、ついに王女は声を張り上げた。


「そこまでにしなさいッ。ラエティティア・クラウディア!」

「……ッ!」


 一瞬の静寂。それを逃さず、旅人が凝り固まった武官の剣を易々と弾き飛ばす。宙を舞い地に突き刺さった剣に武官が気を取られた隙を衝き、旅人の剣先が首筋を狙って滑り込んだ。


「もらったッ!」

まもりのかぜッ!」


 すかさず王女の右手が翻った。赤髪の武官を仕留めようとした剣先が見えない壁に食い込んだ途端、思いもよらぬ力でぐにゃりと折れ曲がる。使い物にならなくなった剣を握りしめたまま突風に煽られた旅人の懐に火の玉が飛んできて爆散した。

 目を見開いてった旅人はあっさりとその場に崩れ落ちた。


「怪我はありませんか、アグネアッ」

「不覚を取りました。申し訳ございません。殿下のおかげで助かりました」


 一礼すると赤髪の武官は弾き飛ばされた自分の剣を拾って、倒れた旅人に近づく。王女はその傍らでじっと旅人を見つめていた。


「言葉遣いが幼稚なのに、剣技には一切の無駄がなく敵ながら見事でございました。手ごわい剣の使い手です。思わず火の魔術を使ってしまいました」

「止めを刺すつもりですか」

「殿下の身を危うくする者を生かしてはおけません」

「待ちなさいッ。この者はわたくしを他の誰かと見間違えているのです。少なくともわたくしに敵意を向けることはありませんでした」


 すると銀髪の侍女が進み出てこう言った。


「恐れながら申し上げます。王女様がおっしゃった通り、この旅の者は目に涙を浮かべて王女様のお手を取って、自分の幼馴染であると口にしました。王女様はもちろん私にも感謝の言葉をかけました。人の礼節を心得ているようでございます」

「言葉が通じ始めているのです。もう少し丁寧に事情を訊いてからでもよいのでは」


 侍女と王女の言葉を聞き、赤髪の武官は剣を鞘に納めた。


「かしこまりました。素性のわからぬ者を迂闊に挑発した私にも非がございました。見苦しいところをお見せして申し訳ございません」

「こちらこそ迷惑ばかりかけてごめんなさいね、アグネア」

「いえ。最低限の監視だけは付けさせていただきますが、どうかご理解のほど」


 武官アグネアと王女ソフィアの間で話がまとまり、さっそく侍女ヘレナが水の魔術を使って旅人の懐にできた火傷の手当てに取り掛かった。

 肌着は焦げては破れ、その下の肌も一部が焼けただれている。肌着の上から患部を水で冷やすことを急いだために脱がさなかった肌着はぼろぼろになってしまった。もう一度肌着を全部取り去って、ランタンを灯して改めて全身を見たとき、その身体に今まで見たことのない変化が起こっていることにヘレナは気づいた。


「これは、まさか……嘘、えええッ」

「どうしたの、ヘレナ」


 日ごろ感情の穏やかなヘレナが珍しく素っ頓狂な声を上げたので、ソフィアは彼女の顔をじっと見た。ヘレナの顔は驚愕そして困惑と表現する以外にない表情で占められている。


「申し訳ございません、つい驚いてしまって……奇声を上げてしまいました」


 侍女ヘレナは一呼吸おいてから、その理由を王女ソフィアへと伝えた。


「この方は、どうも……私たちとは違う種族の方であるようです」

「違う種族……いいえ、どう見ても人類種ですわ。たしかにわたくしたちより大柄だし、傷だらけだし、身体もごつごつしているけれど……耳は長くないし、頭に角も生えていないし、肌も近しい色をしているもの」

「はい、おっしゃる通り人類種であることは同じです。身体的特徴を見たところ、このバルティカから失われたはずの男性個体ではないか、と思われます」


 銀髪の侍女が口にした言葉にどよめきが起こる。王女も目を丸くして唇をぎゅっと結んでいた。


「男性といえば八百年前に全部死に絶えたはずじゃ……」

「はい、にわかには信じがたい事実ですが……その証拠に私たち女性にはない生殖器らしきモノが下腹部に備わっております」


 ヘレナが指さす先を凝視してソフィアは固まった。彼女たちが生殖のために互いにマナを交換する際に使う魔術器具ファロースに似た形状の何かがそこに屹立していた。


「ねぇ、いつの間にこんな角が生えたの」

「わかりません。男性個体には特有の器官が備わっており、何らかの刺激を受けて膨張する仕組みであった……古い書物でそのような記述を見たことがございます」

「わたくしたち、とんでもない物を拾ったのかしら……」

「信じられませんが、私たち女性とは明らかに異なる体つきでございます。女性ではないと考えるほかないかと」

「ともかく命を助けましょ。とても貴重な男性個体だったら、できればこのまま王都に連れ帰ってお母様とお姉様にもお見せしたいから」


 ヘレナの応急処置が終わり、動かせるようになった旅人の裸身を護衛の兵士たちが抱えて天幕の中に運び込んだ。兵士たちが交代で旅人が逃げ出さないように見守る。衰弱した身体で急激に動いた反動か、高熱を出した旅人の看護を続けて、明くる日を迎えた。

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